人によって違いはあるものの、住宅ローンの返済期間は30年、35年など、長期間に渡ってしまう場合が多いです。そして、すべての住宅ローンを完済し終えるまでに支払う元本と利息は、相当高額になるのが一般的です。
このようなことから、「少しでも損をしないように住宅ローンを返済したい」と考える人はたくさんいます。このとき、住宅ローンを賢く返済するための方法の1つに、「繰り上げ返済」を上手に活用することが挙げられます。
ただ、繰り上げ返済はその方法やタイミングを間違えてしまうと、大きく損をしたり資金が回らなくなったりしてしまう可能性があります。
そこで本記事では、繰り上げ返済のみを徹底解説することで、住宅ローンを賢く返済し、かつ、総返済金額を少なくする方法を紹介していきます。繰り上げ返済の基本的な部分から実際のシミュレーションまで、幅広く解説していくことで、繰り上げ返済の魅力を理解していただけると考えます。
1.繰り上げ返済とは

繰り上げ返済とは、ある程度まとまったお金をローンの返済に充てることによって支払う利息を少なくさせることをいいます。支払う利息が少なくなるということは、トータルで返済するお金が定期的に返済するよりも少なくて済むといった効果があるということです。
たとえば、3,000万円の住宅ローンの残高がある際に、毎月の返済に加えて100万円を支払うことで、元金を一気に2,900万円に減額することができます。
35年間固定金利 金利1%の場合 | 元金3,000万円の場合 | 元金2,900万円の場合 | 差額 |
---|---|---|---|
毎月の返済額 | 84,685円 | 81,862円 | 2,823円 |
総支払額 | 35,567,804円 | 34,382,223円 | 1,185,581円 |
上記の図を見て分かる通り、金利1%にて35年間固定金利の場合、100万円の繰り上げ返済を行うことで、総支払額に1,185,581円の差額があることが分かります。
このとき、繰り上げ返済には大きく、「期間短縮型タイプ」と「返済額軽減タイプ」の2種類に分けられます。また、特徴にも大きな違いがあります。以下では、それぞれの違いやポイントを図解を交えて分かりやすく解説していきます。
1-1.期間短縮型タイプ
期間短縮型タイプとは、まとまったお金をローンの返済に充てることによって「返済回数を減らす繰り上げ返済方法」になります。先ほどの例は、期間短縮型タイプに分類されます。

たとえば、住宅ローンを35年で支払うと仮定した場合、35年×12ヶ月で総返済回数が420回になります。
このとき、期間短縮型タイプの繰り上げ返済を実行することによって、返済回数が10回分短縮されて総返済回数が410回になるといったイメージです。また、元金が減ることでその分の利息も減るため、総返済額も少なくなります。
こちらは後述する「2-1.期間短縮型タイプで繰り上げ返済した場合の効果」で具体的にシミュレーションしながら詳しく解説していきます。
1-2.返済額軽減タイプ
返済額軽減タイプとは、まとまったお金をローンの返済に充てることによって「月々の返済金額を減らす繰り上げ返済方法」になります。

たとえば、月々の住宅ローンの返済額が10万円だったものが、返済額軽減型タイプの繰り上げ返済を実行することで、月々の返済額が9万円になるといったイメージです。
こちらについても後述する「2-2.返済額軽減型タイプで繰り上げ返済した場合の効果」で具体的にシミュレーションしながら詳しく解説していきます。
1-3.繰り上げ返済には原則として手数料がかかる
金融機関によって異なるものの、住宅ローンの繰り上げ返済を行うには「繰り上げ返済手数料」がかかる場合があります。
以下は、三大メガバンクと呼ばれる三井住友銀行・三菱東京UFJ銀行・みずほ銀行の三行における繰り上げ返済手数料の有無をまとめた表になります。
金融機関 | 繰り上げ返済手数料 |
---|---|
三井住友銀行 | 一部の繰り上げ返済はインターネットバンキングを利用することで無料。それ以外は有料 |
三菱東京UFJ銀行 | 一部の繰り上げ返済はインターネットバンキングを利用することで無料。それ以外は有料 |
みずほ銀行 | 一部の繰り上げ返済はインターネットバンキングを利用することで無料。それ以外は有料 |
参考 平成28年4月現在における三大メガ銀行ホームページより
三大メガバンクの住宅ローンにおける繰り上げ返済は、「インターネットバンキングを利用」することで、一部の繰り上げ返済は無料でできることがわかります。
ただ、前述の通り、これは金融機関によってすべて異なっているため、住宅ローンの申し込み前に繰り上げ返済手数料が有料か無料かについてもよく確認しておくべきポイントになります。
1-4.フラット35の場合、繰り上げ返済は100万円から
住宅金融支援機構が取り扱っている長期固定金利の住宅ローン「フラット35」は、繰り上げ返済手数料が無料であるといった特徴があります。
ただし、繰り上げ返済するためには、100万円以上でなければならないため、「いつでも簡単に行うことができない」といった特徴についても合わせて知っておきたいポイントといえます。
なお、住宅金融支援機構やフラット35については、同サイトの「フラット35を提供する住宅金融支援機構が分かる4項目」で詳しく解説しております。
2.繰り上げ返済の効果をシミュレーション

前項では、繰り上げ返済には「期間短縮型タイプ」と「返済額軽減タイプ」があることを解説しました。次に、実際に数字に置き換えることで、繰り上げ返済の効果を肌で感じることができます。
ここでは、以下の条件で2つの繰り上げ返済を行った場合における効果を、シミュレーションしながら解説していきます。
2-1.シミュレーションの条件
これからシミュレーションする条件として、以下のようなケースに当てはめて解説していきます。
項目 | 内容 |
---|---|
住宅ローン借入金額 | 3,000万円 |
金利 | 固定金利 1.5% |
返済期間 | 35年(420回) |
返済方法 | 元利均等返済 |
2-2.期間短縮型タイプで繰り上げ返済した場合の効果
項目 | 繰り上げ返済前 | 繰り上げ返済後 |
---|---|---|
1か月あたりの返済金額 | 91,855円 | 91,855円 |
35年間の総返済金額 | 38,579,007円 | 38,137,691円 |
差額 | - | 441,316円 |
返済期間 | 35年 | 33年9ヶ月 |
短縮期間 | - | 1年3ヶ月 |
上の図を見ると、期間短縮型タイプで繰り上げ返済する前と後を比較すると、1ヶ月あたりの返済金額が91,855円と変わらないことがわかります。その一方で、返済期間が35年から33年9ヶ月に短縮されていることも上記表から確認できます。
さらに、住宅ローンの借入から10年後に100万円の繰り上げ返済を実行することで、総返済金額が約3,814万円の返済となり約44万円の利息の軽減効果があります。
このとき、100万円を支払うことで、「44万円しか効果がなければ、56万円の損をしたのでは?」と考えてしまう方がいます。しかし、これは大きな間違いです。あくまでも、先に100万円をまとめて返済したことによって44万円の利息分が得をしたと考えなければならないのです。
これが、期間短縮型タイプで繰り上げ返済を実行した場合の大きな特徴になります。
2-3.返済額軽減型タイプで繰り上げ返済した場合の効果
項目 | 繰り上げ返済前 | 繰り上げ返済後 |
---|---|---|
1か月あたりの返済金額 | 91,855円 | 87,855円 |
35年間の総返済金額 | 38,579,007円 | 38,379,241円 |
差額 | - | 199,766円 |
返済期間 | 35年 | 35年 |
短縮期間 | - | 変化なし |
一方、返済額軽減型タイプで繰り上げ返済する前と後を比較すると、1ヶ月あたりの返済金額が91,855円から87,855円となります。1ヶ月あたりの返済額でいえば、4,000円少なくなっていることを理解できるはずです。
そして、住宅ローンの借入から10年後に100万円の繰り上げ返済を実行することで、総返済金額が約3,837万円の返済となり、約20万円の利息の軽減効果があります。
ただ、繰り上げ返済における利息軽減の効果は、「期間短縮型タイプ」の方が「返済額軽減型タイプ」よりも大きいです。
これが、返済額軽減型タイプで繰り上げ返済を実行した場合の大きな特徴になります。
2-4.「将来」によって最適な繰り上げ返済方法は異なる
ここまで、住宅を購入してから10年後に100万円を繰り上げ返済するといったイメージでシミュレーションをしました。
しかしながら、実際は10年後の環境によって、最適な繰り上げ返済方法は異なります。
たとえば、10年後にお金の余裕があった場合、「期間短縮型タイプ」で繰り上げ返済するだけでなく、お金を貯めながらまとまったお金を返していくのが最適です。
一方、子どもの教育費やその他のお金が多くかかるといった理由から、「返済額を少しでも減らしたい」と考える方もきっとおられるでしょう。このような場合、「返済額軽減型タイプ」の方が最適です。
このように、目先の利息軽減金額だけでなく、10年後などの将来によって最適な繰り上げ返済方法は異なることになります。これは実際にその時にならなければわからないことも確かにありますが、住宅ローンを申し込む前の資金計画などにおいて、返済計画としてしっかりシミュレーションをしておくことが大切です。
2-5.資金繰りが苦しくなったら本末転倒
繰り上げ返済は利息の軽減効果があるものの、家計や家族の将来を考えながら実行しなければならないことは言うまでもありません。無理をして繰り上げ返済を実行し、かえってお金に対して苦しい思いをしてしまうことは本末転倒です。
繰り上げ返済は、十分な貯蓄や余裕金がある中で行うことが鉄則といえます。
2-6.「65歳」が大きな分岐点
住宅ローンの申し込みを行う際、「毎月返済していける金額」を考える方は多いです。そこで、これは当然のことなのですが、毎月の返済額を少なくするために、「返済期間を長くする」といった方法があります。
項目 | 35年返済 | 30年返済 |
---|---|---|
1か月あたりの返済金額 | 91,855円 | 103,536円 |
「2-1.シミュレーションの条件」において、返済期間を35年から30年返済に変更しただけで、1ヶ月あたりの返済金額が103,536円となり、1ヶ月あたり11,681円を多く返済していることになります。
たとえば、住宅ローンの返済において「月々10万円を切るくらいであれば返済が可能」と考えていたとしましょう。しかし、返済期間が30年では予算がオーバーするため、場合によっては35年返済を選択するかもしれません。
ただ、これで月々の返済が予算内で収まったとはいえ「完済する年齢」はどうでしょう。
平成28年4月現在「65歳から支給」される年金制度において、月々91,855円の住宅ローン返済は相当な負担になることは言うまでもありません。そのため、返済期間中に65歳を超えても住宅ローンの返済が続いている場合、そのことを理解した上で資金計画を立てなければなりません。
繰り上げ返済の「期間短縮型タイプ」ではシミュレーションの結果、35年返済が33年9ヶ月に返済期間が短縮されました。仮に31歳で35年の住宅ローンを抱えた場合、繰り上げ返済を実行しなければ完済年齢は66歳になります。
一方、繰り上げ返済をした場合、64歳9ヶ月となることから、年金生活前に住宅ローンが無くなる結果となります。
つまり、上手な繰り上げ返済は「利息を軽減させる効果」だけでなく「安心した老後生活を送れる好影響」を与えていることになるのです。
3.繰り上げ返済を実行するためのアドバイス

ここまで繰り上げ返済について解説してきましたが、さまざまな状況に応じて良い効果があることは理解できたのではないでしょうか。ここからは、繰り上げ返済を実行に移すためにやっておくべきポイントを紹介していきます。
3-1.計画的な貯蓄を実行する
金融機関によっては、繰り上げ返済できる金額が異なっている特徴があるものの、まとまったお金を繰り上げ返済する程、その効果があることは先に解説した通りです。
これは毎月定期的にお金を貯蓄し、ある程度の時期がきたら繰り上げ返済するといった方法でもあり、お金を減らすリスクがまったくない状態で行うことができます。
取り入れやすい方法でもあるため、早い時期から計画的に取り組むことがポイントです。
3-2.資金的な余裕がある場合は、投資などの資産運用を実行する
資金的な余裕がある場合、金融商品に投資するといった方法があります。ただし、金融商品に投資することは損をしてしまう可能性を含んでいることを忘れてはなりません。
「3-1.の計画的な貯蓄を実行する」ことでまとまったお金を貯められ、かつ、資金的に余裕がある場合にリスクを踏まえた上で実行してみるべきでしょう。
3-3.家計におけるお金の流れを確認してから繰り上げ返済を実行する
繰り上げ返済をいざ実行する前には、家計における将来のお金の流れをしっかりと確認しておかなければなりません。急なタイミングでお金が必要になる可能性があるからです。
たとえば、数年後に子どもの大学進学がある場合や、私立の学校へ通う予定などでお金が多くかかることが予想されるときは、無理に繰り上げ返済はお勧めできません。さまざまなライフイベントに対して対応することができる備えや、対策がされているか改めて確認しておく必要があります。
このとき、お金の損得だけでなく、家計全体のお金が円滑に回ることによって、はじめて繰り上げ返済の効果が活きてくることを決して忘れてはならないのです。
そのため、将来のライフイベントにおいて「お金が足りなくなる可能性がある」と判断できるのであれば、無理に繰り上げ返済をせず、また次の機会に備えるといったおもいきった決断も時には必要です。
まとめ
本記事では、住宅ローンの繰り上げ返済について解説し、シミュレーション結果を提示することで、その効果を実際に目で確かめていただきました。
確認として、住宅ローンを賢く返済するための「繰り上げ返済」6つのポイントをもう一度おさらいしていきます。
- 計画的な貯蓄を実行する
- 資金的な余裕がある場合は、投資などの資産運用を実行する
- 家計におけるお金の流れを確認してから繰り上げ返済を実行する
- 「将来」によって最適な繰り上げ返済方法は異なる
- 資金繰りが苦しくなったら本末転倒
- 「65歳」が大きな分岐点
上記6つのポイントをすべて守ることができれば、住宅ローンを効果的に返済することが可能になります。また、繰り上げ返済だけに特化するのではなく、あくまでも家計基準で総合的に判断することが大切であることを忘れないようにしてください。
上手な繰り上げ返済は、「利息を軽減させる効果」だけでなく「家計のお金」や「安心した老後生活」などに良い影響を与えています。
そのため、目先のことだけにとらわれるのではなく、将来を考える「広い視野と考え」を持てる人が繰り上げ返済を上手に活用できる人であり、住宅ローンを賢く返済できる人であると考えられます。
本記事の内容をすぐにでも実行して、将来「やっておいて良かった」と思える日を迎えていただければ幸いです。