平成28年2月に日本銀行が施行したマイナス金利政策は、住宅ローンの金利に大きな影響を与えております。住宅ローンをこれから検討している人であれば、誰もがすでにその好影響について押さえていると思われます。
とはいえ、「マイナス金利がこれから住宅ローンを検討している人に対して将来的にどのような影響があり、どのような効果があるのか」まではしっかりと把握されていない人がほとんどだと考えられます。
中には、マイナス金利について自分で色々と調べている勉強熱心な人もおられると思いますが、専門用語が並んだ解説を読んだところで、自分が知りたい「核心」に迫れていない人がきっと多いのではないでしょうか。
本記事では、マイナス金利政策がこれから住宅ローンを検討している人に対してどのような影響を与えるのかをより明確に伝えるために、具体的な数値を例にあげて解説していきたいと思います。専門用語を最小限に抑え、住宅ローン検討者の立場に沿った「核心」をついた内容です。
目次
1.マイナス金利政策とは
はじめに、マイナス金利政策について簡単に解説していきます。
平成28年2月15日から施行されたマイナス金利政策施行前は、上記図の「これまでは」のように、民間銀行が日本銀行に預け入れたお金に対して金利分の「利息」を受け取ることができました。
仮に日本銀行へお金を預け入れた金利が0.1%だとして1億円を預金したとしますと、10万円の利息が日本銀行から民間銀行へ支払われるといったイメージが上記図の「これまでは」になります。
一方、マイナス金利政策施行後は、上記図の「今後は」のように、日本銀行へ預金したお金に対してペナルティーとして金利分の「利息」を支払わなければならないといったおかしな現象が生じています。これが「マイナス金利政策」の仕組みです。
先ほどの例と同様に考えてみると、日本銀行へお金を預け入れた金利が-0.1%だとして1億円を預金をした場合、10万円の利息を民間銀行が日本銀行へ支払わなければならないといったイメージが上記図の「今後は」になります。
結果として民間銀行は、日本銀行へお金を預金することで利息を支払わなくてはならなくなるため、マイナス金利政策の導入によって日銀に多くのお金を預けるのを避けるようになります。
日本銀行は、民間銀行が今まで日本銀行に預け入れていたお金を広く多くの人や企業へ融資する仕組みを作ることで、日本経済を活性化させようといった意図があったわけです。
2.マイナス金利政策による身近な影響
マイナス金利政策が施行されたことによって、私たちの生活において身近に感じる影響がいくつかあります。この項では、それらの影響について解説していきます。
2-1.マイナス金利政策で住宅ローンの金利が引き下げ
「歴史的な低金利」と言われる程、2016年6月現在の住宅ローンは低金利状態が続いており、住宅購入をはじめ、住宅ローンの借り換えなどについて追い風であるのは間違いありません。
2-2.マイナス金利政策で預金金利が引き下げ
マイナス金利政策前においても預金金利の金利は低い状態でしたが、マイナス金利政策後においてさらに預金金利が低くなりました。「0.02%」や「0.001%」など金利はさまざまですが、どちらにしても資産運用として利用するのは期待できるものではないことは明らかです。
2-3.マイナス金利政策によって国債で運用する投資信託の受付が停止
こちらは、金融商品に投資している方に関係のある項目になりますが、マイナス金利政策によって国債で運用する投資信託の受付が停止となりました。本記事におきましては、詳しい解説は割愛させていただきますが、金融商品に投資をしていない人には特段影響が及ばない内容になります。
なお、「貯蓄性保険」や「ATM手数料」などの解説につきましては、「5.マイナス金利政策における今後の懸念について」で解説していきます。
3.要はここが知りたい! 返済金額を数値化して効果を比較
住宅ローンを検討している多くの方が感じていることは、「マイナス金利政策が施行になっていったいいくら得するのか」といったことではないでしょうか。要は、難しい話はどうでもよくて、支払うお金がどの程度なのかといった本質(核心)だと思います。
そこで、本項では現在(平成28年6月)時点での金利と10年前の金利(平成18年)で住宅ローンを借りた場合の返済金額などを紹介し、マイナス金利政策の恩恵がどの程度あるのか「あなたの目」で確認してもらいたいと思います。
まずは上記図の「民間金融機関の住宅ローン金利推移」を参考に比較条件を以下の表で提示していきます。
比較条件
比較項目 | 平成18年度 | 平成28年6月現在 |
---|---|---|
借入金額 | 3,000万円 | |
返済期間 | 35年 | |
ボーナス払い | なし | |
金利 | 固定金利 | |
※ 概算利率 | 3.0% | 1.40% |
返済方法 | 元利均等返済 |
※ 概算利率は、団体信用生命保険に加入するものとして0.3%の上乗せ分を含めたものとしております。また、金融機関独自の「優遇金利」についても概算適用したものとしています。上記表の「青線グラフ」を概算計算の基礎としています。
10年前と現在では、概算利率が「1.6%」生じています。金利差1.6%はいったいどのくらいのお金に影響を及ぼすのか本質にいよいよ迫ります。
シミュレーション結果
比較項目 | 平成18年度 | 平成28年6月現在 | マイナス金利 政策効果(差額) |
---|---|---|---|
1ヶ月の返済金額 | 115,455円 | 90,392円 | 25,063円 |
総返済元金 | 3,000万円 | - | |
総返済利息 | 18,491,123円 (1849万円) | 7,965,012円 (約796万円) | 10,526,111円 (約1052万円) 端数切捨て処理の関係で誤差あり |
総返済金額 | 48,491,123円 (約4849万円) | 37,965,012円 (約3796万円) |
上記表の結果を見ると一目瞭然ですが、金利差1.6%は、約1,052万円もの返済金額の違いを生じさせていることが分かります。そして、この利息はすべて金融機関の「儲け」にあたります。
たとえば、当時の金利で住宅ローンを借りていた人が「今借り換えた方が得である」という考え方は、上記表の比較表のように新規で住宅ローンを借入する理屈と同じであることから納得していただけるのではないかと感じております。
また、住宅ローンの返済金額について解説しておりますので、予備知識としてアドバイスさせていただきますと、住宅ローンは、「選ぶ金利」や「選ぶ返済方法」の組み合わせによっても総返済金額がすべて異なってきます。
ここでは仮に平成28年6月現在の条件で返済方法を「元利均等返済」を選んだ場合と「元金均等返済」を選んだ場合の違いについても紹介していきます。
比較条件
比較項目 | 平成28年6月現在 | |
---|---|---|
借入金額 | 3,000万円 | |
返済期間 | 35年 | |
ボーナス払い | なし | |
金利 | 固定金利 | |
概算利率 | 1.40% | |
返済方法 | 元利均等返済 | 元金均等返済 |
シミュレーション結果
比較項目 | 元利均等返済 | 元金均等返済 | 差額 |
---|---|---|---|
総返済元金 | 3,000万円 | - | |
総返済利息 | 7,965,012円 (約796万円) | 7,367,260円 (約736万円) | 元金均等返済の方が約60万円の得 |
総返済金額 | 37,965,012円 (約3796万円) | 37,367,260円 (約3736万円) |
同じ借入条件でも返済方法が異なるだけで「60万円」もの差が生じていることがわかりました。
35年間で60万円の差額をどのように捉えるかは、個人差のあるところではありますが、元利均等返済、元金均等返済、それぞれの返済方法をよく理解していないことには、この60万円の差額を高いと感じるか、安いと感じるかの判断は付けることはできないと思います。
これらの返済方法の違いについてよくわからない人は、同サイト内の「住宅ローンとは:金利や返済、融資先まで理解する9つの極意」を読み進めていくことを強くおすすめ致します。
上記リンクから、住宅ローンの基本となる部分についてさまざま知ることができたり、住宅ローンの内容について再確認したりすることも可能となっております。
4.マイナス金利政策における昨今の事情について
マイナス金利政策が、住宅ローンに与える影響につきましては十分ご理解されたと思います。前項で解説しましたように、返済金額を数値化して効果を比較することで「今が住宅ローンの申し込みをするタイミングだ」と感じられた人も多いのではないでしょうか。
今のところ、このように感じられた人は「正しいタイミング」だと予測します。
実際、大手金融機関や条件の良い人気の住宅ローンは申し込みが殺到し、住宅ローンの審査から融資実行まで時間を要しているのが現状です。そのため、希望のタイミングで融資が実行されないといった現象も起きております。
あくまでも「安全」で「余裕」のある住宅ローンの返済計画を立てる必要性があると前置きしつつも、この低金利のタイミングをできる限り逃さないことをおすすめしたいと考えます。
5.マイナス金利政策における今後の身近な懸念について
何事も「良い点」「悪い点」はどうしてもあるものです。マイナス金利政策において、今後懸念される身近な影響について、ここでは2点ほど解説していきます。
5-1.貯蓄性保険商品の実質値上げ
これから住宅購入を検討している人の多くは、子育てに奮闘中だと予測します。中には、子どもが誕生したことをきっかけに住宅購入を決断した人もおられることでしょう。
貯蓄性保険商品とは、このような人たちに多く需要のある「学資保険」や「個人年金保険」といった満期まで保険料を支払い続けることによって、満期返戻金(返ってくるお金)が支払った分よりも多くなるといった特徴がある生命保険です。
「貯蓄性」と言うだけあってその利回りは預金金利と比べられない程、優れているのも特徴です。
子どもの教育資金の確保のために多くの子育て世帯から絶大な人気を誇る「学資保険」をはじめ、老後資金対策としての目的があり、公的年金の上乗せとしての役割がある「個人年金保険」はどちらも若年者に需要のある生命保険です。
マイナス金利政策が実行されてからは、生命保険会社が運用する金融商品などに影響が生じたことから、実際に大手生命保険会社では貯蓄性保険商品の取り扱いを停止した動きもあります。その他、貯蓄性保険の「月々の保険料の増加」「満期返戻金の減額」といったことも今後十分予測することができます。
5-2.ATMなどサービス手数料の引き上げ
マイナス金利政策が施行されたことによって、金融機関の利益の圧縮は避けられない状態になりました。これを補填するためにATM手数料や振込手数料の引き上げも、今後予測されます。
金融機関は、マイナス金利政策によって住宅ローンの引き下げを行っておりますが、この引き下げがいつまで続くのかわかりません。そして、まだ大丈夫だろうといった高を括った考え方は大変危険です。
この理由は、すでにマイナス金利政策を施行しているヨーロッパのいくつかの国々においては、「住宅ローン金利の引き上げる動きが見受けられており、これに乗じて日本の金融機関も一斉に引き上げるかもしれない」といった予測が成り立つからです。
危ない橋もみんなで渡れば怖くないように、たとえば、メガバンクと呼ばれる大手3行が住宅ローンの金利を引き上げたことにより、他の銀行や地方銀行も一斉に金利を引き上げたとしたら、当然、今よりも高い金利になってしまいます。このような状況が起こることも十分予測できるわけです。
それぞれの金融機関は圧縮された利益を確保するために厳しい状況であることは理解しておく必要性があるでしょう。そして、それを打開するためにさまざまなサービスを展開しているのです。
6.理想論? 金融緩和がもたらす効果と流れ
マイナス金利政策が、一般の人の身近な生活に与える影響について解説してきましたが、最後に「金融緩和」がもたらす効果と流れについて解説していきます。
昨今、テレビのニュースなどでは「金融緩和」という言葉が飛び交っておりますが、そもそもこの金融緩和とはいったい何なのでしょう。きっと多くの人は金融緩和といった言葉を一度は目にしたり、耳にしたりしたことがあると思います。
金融緩和とは、かみ砕いて説明しますと「日本全体のお金の流れを良くするための政策」です。要は、「景気が良くなるためには、多くの人がお金をたくさん持ち、そのお金をたくさん使うことで、お金が回り続けるため、経済が良くなるだろうと」いった寸法です。まずは、金融緩和がもたらす効果と流れについて解説していきます。
6-1.企業の収益や生産量が上がる
金融緩和が行われることで、日本全体のお金の流れが良くなるわけですから、結果として企業の収益や生産量が上がる要因になります。このような状況が作り出せた場合、企業はさらなる収入や収益の増加をさせるために、新たな機械などの設備を導入したり、新規の雇用を生み出そうとしたりすることを考えます。
これを日本全体で見た場合、失業者が減少することにもつながるため、結果として「多くの人がお金をたくさん持つ」といった金融緩和の目的に合致することになります。
6-2.収入が増える
企業の収益や生産量が上がることは、結果として企業の増収増益につながることが考えられます。これは、結果として従業員の給料や賞与などに反映されるようになります。
6-3.お金を使う人が増える
給料や賞与が多くもらえるということは、家族でおいしいものを食事したり、欲しい物を購入したり、結果として消費が拡大することにつながります。こちらも「お金をたくさん使うことで、お金が回り続ける」といった金融緩和の目的に合致していることがわかります。
消費が拡大するということは、無くなった物をまた生産する必要があるため、「6-1.企業の収益や生産量が上がる」といった流れに戻ることになります。この繰り返しで日本経済を活性化させるのが金融緩和の効果と流れになります。
しかしながら、現状を振り返ってみますとこの流れがスムーズになっていないと多くの人が心から感じていると思います。
デフレが10年以上も続いていることなどもあり、企業が増収増益をしたとしても、設備投資や賃上げに踏み切れず、何かのためのリスク回避として資金を留保(貯める)傾向が多く見受けられます。
給料の増加が見込まれないのであれば、今あるお金を上手く利用することが求められます。住宅購入や住宅ローンの借り換えを検討している人は、このタイミングを上手く活用できる人、活用できない人に大きな差が生じることは、言うまでもないでしょう。
まとめ
本記事では、一般の人の立場に沿ってマイナス金利政策が住宅ローン検討者に与える影響について身近な生活と直結するような内容を中心に解説しました。
今、多くの人が持たなければならないことは、一生懸命働いたとしても給料が上がらないと嘆く前に、今あるものをどのようにしたらもっと良くなるのかといった「発想の転換」だと思います。自分のお金をどのようにしたらもっと多く残すことができるのかといった「資産防衛」の時代はすでに始まっているわけです。
マイナス金利政策の影響によって生じた「低金利」を上手く活用することも、当然に「資産防衛」の1つです。大切なことは、時代の流れに沿って最適な方法を選択できることなのではないでしょうか。