ペアローンを利用することで、親子間や夫婦間でそれぞれ住宅ローンを借りることができます。双方が共働きで安定した収入があるなど、住宅ローンの融資条件が整っていることで、極めて効果的なローン対策の1つとなります。
ペアローンは、それぞれの世帯によって収入金額や所得金額をはじめ、職業が異なっていることから、時として住宅ローンの審査通過や将来の返済計画に好影響を及ぼすことも予測できます。賢く活用できることは、世帯にとって大きなプラスになります。
ただ、中には「ペアローンという言葉を初めて聞いた」「具体的なメリットやデメリットが知りたい」という方も多いはずです。
本記事では、ペアローンにおけるメリットやデメリットを中心に、住宅ローンにおいてペアローンを検討する上での考え方などについて幅広く解説していきます。それぞれを総合的に判断して、メリットの方が大きくなる場合、ペアローンの検討をして見ることをオススメ致します。
1.ペアローンとは
まず、ペアローンとは、同居予定の親子や夫婦が、1つの住宅を購入する際にそれぞれ別々に住宅ローンを組むことを言います。
ペアローンの特徴と致しましては、住宅ローンの契約が2つに分かれ、親子や夫婦がそれぞれの名義で1つずつ住宅ローンを組むことになります。


つまり、1人で住宅ローンを借入するのではなく、親子あるいは夫婦それぞれで融資を受けるということです。そのため、それぞれの年齢や状況に応じた返済期間になるなどの特徴があります。
たとえば、3,000万円の不動産を購入する場合、「夫:2,000万円」「妻:1,000万円」といったように、それぞれの借入金を合算することをペアローンと呼びます。
さらに理解を深めていただくために、以降、ペアローンについて細かく解説を続けていきます。
1-1.単独名義の住宅ローンとの違い
住宅ローンを1人の信用で借りる、いわゆる「単独名義の住宅ローン」と「ペアローン」は、以下のような様々な点で大きな違いがあります。
- 審査通過の可否
- 費用面
- 税制度など
たとえば、ペアローンの場合、親子間や夫婦間の収入を合わせて信用が判定されます。そのため、希望の融資金額の審査が通過しやすいメリットが得られます。これを、「収入合算」と呼びます。
一方、単独名義の住宅ローンの場合、債務者(借入を行う人)1人の収入で審査を行います。そのため、ペアローンに比べると融資金額の上限が少なくなったり、1人では審査に通過しづらかったりすることも考えられます。
そこで、ペアローンを活用することで、金融機関からの信用を獲得しやすくなるということです。
ただし、ペアを組むどちらかの信用などに懸念が生じる場合、ペアローンそのものを組むことができないデメリットもあります。たとえば、夫あるいは妻のどちらか一方がカードローンを滞納したり、携帯代を滞納したりした経験などの金融事故歴がある場合です。
この場合、ペアローンができないため、単独名義で住宅ローンを借入せざるを得なくなるといった具合です。
また、税制度に関しても、単独とペアでは違いがあります。
1-1-1.単独ローンの場合、住宅ローン控除(減税)は契約者しか適用されない
単独名義の住宅ローンの場合、住宅ローン控除の適用は、住宅ローンを単独で申し込んだ契約者のみが適用されることになります。
そのため、配偶者が専業主婦である場合やパート勤務といった場合におきましては、世帯全体で大きな影響は考えられないと推測れます。
一方、夫婦共働きでどちらもそれなりの収入がある場合は、世帯の税負担が重くなってしまう懸念が生じます。これがペアローンであれば、夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けられるのです。
詳しくは、「2-3.親子または夫婦それぞれ住宅ローン控除を受けることができる」で後述させていただきます。
1-2.単独ローンとペアローンの収入合算の違い
先に解説した通り、単独ローンの場合、住宅ローンの申込者1人の収入や所得が融資の審査対象になります。
一方ペアローンの場合、親子や夫婦それぞれの収入を合算したものが審査対象となります。
一般に1人よりも2人の方が、収入金額などが大きくなることから、希望の融資金額の審査が通りやすくなる可能性が高くなると考えることができます。
2.ペアローンのメリット
ペアローンのメリットには、先に解説したように、希望の融資金額の審査が通りやすくなるほかにも以下のようなメリットがあげられます。
これらのメリットがあなたにとって多くの恩恵がある場合、ペアローンの借入が適していると考えてください。
2-1.収入合算できるため、単独ローンよりも借入可能額が大きくなる
ペアローンは、親子間や夫婦間といった2人の収入を合算することができます。そのため、1人の収入で住宅ローンを組む単独ローンよりも、借入可能額が大きくなるメリットが得られます。
これによって、住宅ローンの審査に通過しやすくなることはもちろん、希望の融資金額が借りやすくなるメリットもあわせて得られることになります。
2-2.親子または夫婦それぞれが団体信用生命保険に加入できる
ペアローンで住宅ローンを組む場合、親子もしくは夫婦それぞれが単独で団体信用生命保険(団信)に加入することになります。
ケース・バイ・ケースではありますが、民間の金融機関におきましては団体信用生命保険料の負担を無料で行っているローンもあります。住宅ローンの賢い選び方1つで、世帯にとって有利な条件で申し込むことができます。
2-3.親子または夫婦それぞれ住宅ローン控除を受けることができる
ペアローンで住宅ローンを組んだ場合、親子または夫婦それぞれが単独で住宅ローン控除の適用が受けられます。
そのため、特にペアローンを組む相手がどちらも働いている場合におきましては、極めて有効な効果が期待できることになります。
以下、一例ではありますが、単独名義で住宅ローンを組んだ場合とペアローンで住宅ローンを組んだ場合における実際の適用される住宅ローン控除額の違いをシミュレーションして紹介します。
2-3-1.単独ローンとペアローンにおける住宅ローン控除額の違い
シミュレーション条件は以下の通りです。
- 借入金額:3,000万円
- 金利:固定金利1.5%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済
- ペアローンの持分:夫3分の2・妻3分の1
- 返済月:1月から開始
比較項目 | 単独ローン | ペアローン(夫) | ペアローン(妻) |
---|---|---|---|
年末住宅ローン残高 | 29,343,233 | 19,562,155 | 9,781,078 |
初年度 住宅ローン控除額 | 293,400 | 195,600 | 97,800 |
単独ローンもペアローンも、実際に受けられる住宅ローン控除額の合計は同じであることが分かります。ポイントは、ペアローンにおける債務の持分にあります。
たとえば、夫の持分は3分の2であるため、2,000万円、妻の持分は3分の1であるため、1,000万円を基準に住宅ローン控除を算出しなければなりません。
その代わり、夫婦が共働きでそれぞれ住宅ローン控除の適用を受けられることで、世帯全体の納税負担がかなり軽減される効果が期待できるわけです。
なお、こちらは余談となりますが、住宅購入した際に一度だけかかる「不動産取得税」、住宅購入後にかかる「固定資産税や都市計画税」などは、ペアローンを組んだ共有者全員での連帯納付となります。
つまり、個々に納税通知が来るのではなく、ペアを組んだいずれか一方にまとめて通知が来るということです。こちらに関しても、あわせて押さえておくべきポイントと言えます。
3.ペアローンのデメリット
夫婦共働き世帯が多いことから、ペアローンの需要も少なからずあると予測されます。
ただ、当然のことながら、ペアローンにもいくつかのデメリットがあります。本項では、ペアローンにおけるデメリットについて、幅広く解説していきます。
3-1.親子または夫婦がそれぞれ連帯保証人になる
ペアローンで住宅ローンを組んだ場合、親子または夫婦がそれぞれ担保提供者になるのと同時に、連帯保証人にもなります。
そのため、ペアのいずれかがローンの返済ができなくなってしまった場合は、もう一方が債務を返済する義務が生じることになります。
3-2.住宅ローンの申し込み費用と手間が2倍かかる
ペアローンは、それぞれが住宅ローンを組む形式となることから、住宅ローンの申し込み費用や手間も2人分かかることになります。
通常、極めて大きな負担となることから、ペアローンにするメリットを明確に見出していることが求められます。
3-3.親子または夫婦がそれぞれ住宅ローンの審査に通る必要がある
ペアローンは、それぞれが住宅ローンの契約を交わすことになるため、結果としてペアになるどちらも住宅ローンの審査に通る必要があります。
住宅ローンの審査は、すでに多くの皆さまがご存知の通り、時間がかかるだけでなく面倒かつ労力を要するため、時としてロスが大きくなってしまう可能性も否めません。
3-4.夫婦間で離婚した時の名義変更・残金処理が複雑で面倒
仮にペアローンを組んで住宅ローンの返済途中の状況で夫婦が離婚してしまった場合、後の名義変更や残金処理が複雑で面倒なデメリットもあります。
円満離婚である場合であれば手続きがスムーズに流れると考えられますが、離婚の原因も様々であることから、時として双方の手続きがとても難しくなってしまう可能性も否めません。
4.ペアローンを検討する際の注意点
ペアローンで住宅ローンを返済するということは、ペアがそれぞれ住宅ローンを完済するまでの長期間に渡って安定した収入を確保することができるなど、様々な条件を満たしていることが求められます。
これは、住宅ローンを融資する金融機関側の問題だけではなく、私たち住宅ローンの債務者側の問題でもあります。そこで本項では、ペアローンを検討する際の注意点について考えていきたいと思います。
4-1.夫婦の「住宅ローン借入比率」と将来のライフプランを確認する
ペアローンを組む場合において、一般に夫が妻よりも抱える借入額が多い傾向があります。これは、収入や所得を基準とした住宅や債務の持分割合と、ほぼ等しくしていることの表れであると考えることができます。
仮に夫婦でペアローンを組んでいる状況で、夫婦いずれかが住宅ローンの返済期間中に亡くなってしまったとします。
このとき、夫婦それぞれが加入している団体信用生命保険の保険金によって、亡くなった方が抱えていた住宅ローンが完済されます。

一方、残された方の住宅ローンは引き続き残ることから、自分の抱えている住宅ローンを継続して返済していかなくてはなりません。

つまり、ペアのどちらか一方に団信が適用されたとしても、残された一人の債務は今まで通り消えないということです。それぞれが借入を行うため、返済できなるのはどちらか一方だからです。
このとき、仮に亡くなった方が夫の場合、残された妻には遺族年金等が支給されます。そのため、ケース・バイ・ケースではありますが、夫が亡くなった後も比較的余裕を持って暮らしていくことができると推測されます。
しかし、その一方で、仮に亡くなった方が妻の場合、かえって家計が苦しくなってしまうことも考えられます。これは、現在施行されている厚生年金保険法や国民年金法といった年金法が大きく関係しているためです。
たとえば、現在(平成29年5月)の各種年金法において、妻(女性)の遺族年金に関する優遇は夫(男性)に比べてかなり厚みがあるのが現状です。さらに、子どもがいる・いないによって、世帯の遺族年金に大きな差が生じているのも紛れもない事実です。
このような事情があることから、仮に残された夫が家計をやりくりしていくための出費や負担というものは、総合的に勘案すると妻を亡くす前より膨らむ傾向にあると考えることができます。
そのため、夫婦でペアローンを組む際には、あらかじめ「住宅ローンの借入比率」や将来のライフプランを確認することが大切であると言えます。
4-2.妻の死亡後のリスクを回避するための方法とは
仮に夫婦でペアローンを組む場合において、あらかじめ妻の死亡に備えたリスク回避策を取っておく必要性もあることがご理解できたと思います。
実際の対策方法は、世帯状況をしっかりと正確に確認しなければ、正しい方法を伝えることはできません。
ただし、「収入保障保険」や「定期保険」といった妻を対象にした死亡保険をに加入することが、簡単かつ効果的な方法であると考えることができます。この方法は、子どもがいる・いないの他、夫婦それぞれの将来のビジョンによって左右する方法ではありますが、幅広い世帯で有効な方法です。
ペアローンを組む際は、通常、夫婦それぞれが「継続して働くこと」が前提です。
しかしながら、それぞれの将来の収入が、継続して安定するといった保証は残念ながらどこにもありません。
また、会社が倒産する場合やリストラといったリスクに加え、家族が増えることによる支出の増加なども考えられます。これらのリスクや負担増を考慮して、ペアローンを検討しなければならないことを踏まえますと、前項で解説した将来のライフプランを考える必要性が改めてご理解できるのではないでしょうか。
5.ペアローンがオススメな人
ペアローンがオススメな人とは、「仕事や収入がしっかりと安定している方」であることが望ましいと考えることができます。もちろん、世帯状況をしっかりと確認することが前提です。
たとえば、公務員や上場企業の社員、医師、士業といったように、夫婦それぞれが単独で収入が比較的高めで安定している場合に、向いていると考えることができるでしょう。
また、育児休業や介護休業といった公的制度を活用した後に職場復帰しやすい環境であることも、合わせて考慮しておきたいものです。
6.ペアローンがオススメできない人
ペアローンがオススメできない人とは、仕事や収入が不安定かつ仕事に復帰しづらい職場環境の方と言えます。
また、親子や夫婦それぞれが住宅ローン契約を結ぶという特徴があることから、両者ともに余裕を持った資力を備えていることが求められます。
ペアになる方のいずれかにこれらの懸念が生じている場合は、ペアローンではなく、他の方法を検討する方が無難だと考えることができます。
まとめ
本記事では、ペアローンにおけるメリットやデメリットを中心に、住宅ローンにおいてペアローンを検討する上での考え方などについて幅広く解説させていただきました。
以下、本記事で解説したペアローンのメリットとデメリット(特徴)を箇条書きで紹介します。
- 収入合算できるため、単独ローンよりも借入可能額が大きくなる
- 親子または夫婦それぞれが団体信用生命保険に加入できる
- 親子または夫婦それぞれ住宅ローン控除を受けることができる
- 親子または夫婦がそれぞれ連帯保証人になる
- 住宅ローンの申し込み費用と手間が2倍かかる
- 親子または夫婦がそれぞれ住宅ローンの審査に通る必要がある
- 夫婦間で離婚した時の名義変更・残金処理が複雑で面倒
ペアローンは、住宅ローンの返済計画を検討する上で1つの選択肢となります。
ただ、本記事で解説したメリットやデメリットを踏まえると、住宅購入を希望しているすべての世帯にとって、有効な方法とは残念ながら言い切ることはできません。
住宅ローンの返済には、「単独ローン」「ペアローン」「連帯債務」「連帯保証」などなど様々な方法があり、世帯によって最適な方法は異なります。
そのため、安全かつ安心で余裕を持った住宅ローンを組むためにもFPや住宅ローンアドバイザーといった専門家と共に、住宅ローンの計画を立ててみることを推奨致します。