住宅ローンをこれから申し込む多くの皆さまが抱えている悩みに「いくらまでなら住宅ローンの借り入れができるのか?」といったものがあります。
実のところ、住宅ローンの申し込みや無理のない返済を考えていく上で、このような考え方は非常に危険であり、最初のスタートラインからつまづいていることになります。
住宅ローンは、「毎月いくらなら無理なく返済できるのか?」といった考え方が大切です。
そして、これを考える上で、現在の家計状況や貯蓄額などについてしっかりと把握していることが大前提となります。
巷では、返済負担率が20%以下や25%以下などの考え方もありますが、この辺も含め、本記事では、年収400万円の世帯を例に住宅ローンの考え方について幅広く解説していきます。
目次
1.大切なことは、借入可能額ではなく無理のない返済金額で考えること
冒頭でも触れましたように、住宅ローンを考える上で大切なことは、借入可能額ではなく無理のない返済金額で考えることになります。
ここで言う「無理のない返済金額」とは、毎月の収入から支出や貯蓄などを除いて余ったお金の範囲で返済できる金額のことを言います。
したがいまして、たとえば、年収が400万円であったとしても毎月の支出や貯蓄額はそれぞれ異なることから、無理のない返済金額も違うことになります。要は「住宅ローンを型にはめて考えることは適当ではない」のです。
2.住宅購入はローンの利息だけでなく、大きく諸費用がかかることを知ろう
住宅購入には、毎月返済する住宅ローンの利息に加え、火災保険料や登記費用などといった住宅購入にかかる諸費用が大きくかかります。
このような住宅購入諸費用をどこから用意するのかも重要になるほか、住宅ローンの返済計画において住宅購入にかかる物件価格にこれらの諸費用を加えた支払総額を把握しておく必要があります。
また、金利のタイプや住宅ローンの借入期間によっても総返済金額が変わるほか、固定資産税や都市計画税などのランニングコストもかかってくることになるため、「今、支払っている家賃程度」で住宅を購入できるわけではないこともしっかりと理解しておく必要があるでしょう。
3.年収400万円の人の借入可能額を試算した結果
本記事の冒頭で、住宅ローンをこれから申し込む多くの皆さまが抱えている悩みに「いくらまでなら住宅ローンの借り入れができるのか?」といったものがあることを紹介しました。
あわせて、住宅ローンの申し込みや無理のない返済を考えていく上で、このような考え方は非常に危険であることもお伝えしましたが、その理由を以下、2つのシミュレーションを見比べて解説します。
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参考:フラット35・年収から借入可能額を計算より
フラット35のホームページから、年収400万円の方が受けられると予測される概算借入可能額は融資条件によって異なるものの「3810万円」であることがわかります。
今度は同じ融資条件で、楽天銀行の借入可能額のシミュレーターで概算借入可能額を算出してみます。
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参考:楽天銀行・年収から借入可能額を試算より筆者シミュレーション
楽天銀行では、年収400万円の方の概算借入可能額が「4,072万円」となっており、フラット35の概算借入可能額との間に相違のあることが分かります。
これが、そもそもあり得ないことと理解しておく必要があり、たとえば、「1+1=2」「4万円×100=400万円」などのような正しい答えが導かれない概算借入可能額を目安とすること自体に大きな問題があるわけです。
仮に、概算借入可能額の通り、上限いっぱい住宅ローンを借り入れした場合における危険性につきましては、「5-1.借入可能額上限で住宅ローンを組んだ場合」で詳しく解説しておりますのでそちらを参考になされることをおすすめ致します。
4.年収400万円の人の理想的な返済負担率
返済負担率とは、年収に占める借入金の返済割合のことを言います。
たとえば、年収が400万円で住宅ローンの1ヶ月の返済が10万円、ボーナス払い無しであったとしますと以下のように計算されます。
{(10万円 × 12ヶ月) ÷ 400万円} × 100% = 30%
この場合、返済負担率は30%となりますが、住宅ローンの申し込みをする前に自動車ローンやその他のローンを抱えている場合は、それらのローンも加えて返済負担率が計算されることになります。
たとえば、年収が400万円で住宅ローンの1ヶ月の返済が10万円、ボーナス払い無しであったと仮定し、さらに自動車ローンを1ヶ月2万円返済している場合は以下のように計算されます。
10万円 × 12ヶ月 + 2万円 × 12ヶ月 = 144万円(年間ローン返済金額)
(144万円 ÷ 400万円) × 100% = 36%
重要なポイントとして、返済負担率を考える上で年収はまったく関係がありません。
つまり、年収400万円の方に理想的な返済負担率というものは存在しないということであり、年収が300万円であろうと年収が1000万円であろうと考え方は同じです。
あわせて、返済負担率は数値が低ければ低い程、望ましいものの、あくまでも「目安」であることをしっかりと認識しておく必要があります。
なお、返済負担率に関する「望ましい割合」につきましては、以下、同サイト内の記事にて詳しく解説しておりますので、そちらを参考になされることをおすすめ致します。
参考:住宅ローンの毎月々の返済金額平均と年収に見合う返済負担率とは
5.年収400万円世帯の無理のない住宅ローンの資金計画シミュレーションとは
住宅ローンは、無理のない返済が当然に求められますが、ここでは年収400万円世帯の方が実際に悩みを抱えた相談事例を紹介しながら、さまざまな角度で資金計画のシミュレーションを考えていきます。
相談事例の内容は以下の通りです。
マイホーム購入のための住宅ローンを組むのに色々と悩んでいます。
現在、夫36才(年収400万前後)、妻28才(専業主婦)、家賃48,000円で生活をしています。
これから住宅ローン組むにあたり、年齢や増税などのほか、頭金を貯めながら家賃を無駄に支払うことを悩んでおります。現在の貯蓄は、500万でその他のローンはありません。
住宅ローンの返済計画において、仮に頭金200万円、月々75,000円の返済は厳しいと感じており、頭金を足して住宅ローンの返済金額を縮小し月々6万円代まで下げたいと思っております。
これは、やはり無謀なのでしょうか?
専門家FPの見解
「安全」「安心」「確実」な住宅ローンの返済を望んでおられるのであれば、情報が足りないというのが率直な感想です。
具体的には、「職業」「子どもの有無(または誕生予定)」「借入条件」「住宅の種類(戸建て、マンション、新築、中古)」など、重要な要素が抜けすぎており、質問者様が一喜一憂するためであれば、ヤフー知恵袋などの掲示板での回答を得ることで安心感や満足感が得られるかもしれません。
ただし、この質問内容で将来を考えた有意義な住宅ローンの返済計画を得るには、残念ながら不十分と言わざるを得ません。以下、2つの考え方で住宅ローンの返済金額の違いを詳しく見るとよくご理解できると思います。
5-1.借入可能額上限で住宅ローンを組んだ場合
ここでは、仮に「3.年収400万円の人の借入可能額を試算した結果」のフラット35における借入可能上限金額「3,810万円」で住宅ローンを組んだ場合の返済金額や総返済金額を紹介していきます。
借入条件は以下の通りです。
- 借入金額:3,810万円
- 固定金利:1.5%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済(ボーナス払い無し)
シミュレーション結果
- 1ヶ月の返済金額:116,656円
- 35年間の総返済金額:48,995,634円(うち支払利息10,895,634円)
- 返済負担率:約34.99%
上記のような住宅ローンの組み方をした場合、今は大丈夫であったとしても、将来、家計が破綻してしまう可能性が極めて高いと予測されます。
一般に、返済負担率は「30%を超えると危険」とされますが、借入可能額の上限で借入すると危険な域を大きく超えていることが分かります。
5-2.余裕のある返済負担率で住宅ローンを組んだ場合
今度は、余裕のある返済負担率(20%)で住宅ローンを組んだものとしてシミュレーションしていきます。1ヶ月の返済金額(ボーナス払い無し)は、以下のように計算されます。
年収400万円 × 20% = 80万円(1年間の返済金額)
80万円 ÷ 12ヶ月 ≒ 66,666円(1ヶ月の返済金額)
前述したシミュレーションと同じ条件で試算した結果は以下の通りです。
- 借入金額:2,150万円
- 固定金利:1.5%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済(ボーナス払い無し)
シミュレーション結果
- 1ヶ月の返済金額:65,829円
- 35年間の総返済金額:27,648,454円(うち支払利息6,148,454円)
- 返済負担率:約19.74%
借入金額が2,150万円で少ないのであれば、金利を固定金利から変動金利などの低い金利に変更することによって、より多くのお金を安全に借りることができます。
ただし、固定金利や変動金利などには、それぞれメリットやデメリットといった特徴があることから、長期間の住宅ローン返済において、自分に合った返済方法や金利を見つけることがとても大切になります。
6.大きな金額の住宅ローンを借りやすくするにはどうしたら良いのか?
一般に住宅ローンの融資は、申込者の収入や年齢をはじめ、さまざまな事情を総合的に判断して決定されるものとなるため、一概に型にはまって言い切ることができないものになります。
とはいえ、できる限り大きな金額の住宅ローンを融資されやすくするためには、何かしらの対策をしておいた方が望ましいこともまた事実であることから、本項では、以下、考えられる対策方法をいくつか紹介していきます。
6-1.十分な頭金を用意する
十分な頭金を用意できているということは、その分、多くのお金を借りやすくなることに繋がります。
実際のところ、住宅購入金額の20%以上の頭金を保有している場合、住宅ローンの金利が安く優遇されるなどの対応をする金融機関が多い傾向にあることから、十分な頭金があるということは、申込者にとって大きなプラスとなるのは明白です。
6-2.返済期間を長くする
住宅ローンの返済期間を長くすることで、1ヶ月の返済金額が少なくなります。
つまり、返済金額が少ないということは、先に解説した「年間の返済負担率」も小さくなることから、こちらも多くのお金が借りやすくなるきっかけの1つと考えることもできます。
また、返済負担率を小さくしておくためには、住宅ローンの申し込み前や本審査前などに、できる限り抱えている債務を完済しておく対策も効果的である一方、返済負担率が高いということは、住宅ローンの融資が通らない原因になることも合わせて押さえておかなければならないことになります。
6-3.配偶者の収入を合算して考える
配偶者の収入を合算することで、1人で住宅ローンを申し込むよりも、より多くの金額の住宅ローンが組みやすくなるメリットが得られます。
夫婦共働きの世帯が増えていることもあり、住宅ローンの返済計画をしっかりと計画的に立てられることで、思い描いている理想の住宅が、安全で安心に購入することができると考えられます。
まとめ
「年収400万円だと住宅ローンはいくらまで借り入れできるのか?」といった質問に素直に応えるのであれば、無料の借入可能額のシミュレーターを利用することで誰でも簡単に金額を導き出すことができますと答えるべきだと思います。
しかしながら、フラット35と楽天銀行の一例を示しましたように、借入可能額というものはあくまでも概算であることに加え、それぞれ金額が異なることから、「目安」としなければならないことも本記事の解説を通じてご理解できたと思います。
住宅ローンの返済を考える上で大切なのは「返済負担率」や「無理のない返済金額」を考えることであり、それを確実に達成するために様々な対策や工夫が必要となることは言うまでもありません。
借入可能額を商売として利用するのは、主に金融機関や不動産業者といった、住宅ローンを融資して利息収入を得る会社や住宅を売買して収入を得る会社であり、いずれも「営利目的」であることを決して忘れてはなりません。
同じく専門家であるFPや住宅ローンアドバイザーも「営利目的」な部分があるものの、あくまでも相談者様から報酬をいただくといった流れになるから、どちらの営利目的へお金を支払って自分にとって有利な情報を得た方がよいのか言うまでもなく明らかだと思います。
住宅ローンの組み方は、相談する業者や相手によって大きく左右されることは間違いありません。後悔のない正しい選択をできる限り実行したいものです。