自営業の方が、住宅ローンの返済をし続けていく中で「繰り上げ返済」を考えたとき、何かしらのメリットやデメリットが生じることになります。
そのため、無計画で繰り上げ返済を行ってしまうことは、かえってロスに繋がることも考えられるため、事前に繰り上げ返済のメリットやデメリットをはじめ、どのようなタイミングで繰り上げ返済をするのが得策なのか知っておく必要があります。
そこで本記事では、自営業の方が住宅ローン債務を繰り上げ返済するメリットおよびデメリットについてわかりやすくまとめ、併せて、住宅ローンを利用することによって適用できる住宅ローン控除との関係性についても解説を進めていきます。
目次
1.住宅ローンの繰り上げ返済には、メリットとデメリットがある
一般に、「住宅ローンは繰り上げ返済するほど良い」と考える人は多いです。
たしかにその通りではあるものの、繰り上げ返済にはメリットとデメリットがあるほか、特に、自営業の方であれば、事業で得た利益から繰り上げ返済がなされることになります。
そのため、あらかじめ住宅ローンの繰り上げ返済について、メリットやデメリットをいずれも理解した上で、住宅ローンの返済計画を立てることが大切です。
そこで次の項より、メリットとデメリットをそれぞれ詳しく解説させていただきます。
繰り上げ返済で経営が悪化しては本末転倒であるため、それぞれを理解していただいた上で繰り上げ返済を検討するようにしましょう。
2.自営業の方が、住宅ローンを繰り上げ返済するメリット
住宅ローンの繰り上げ返済には、以下の2つの方法があります。
- 期間短縮型
- 返済額軽減型
いずれかの繰り上げ返済方法を選ぶことによって得られるメリットがそれぞれ異なることになります。
ここでは、一般的に考えられる繰り上げ返済のメリットについてそれぞれ解説を進めていきます。
2-1.毎月のローン支払いが少なくなり、事業資金に余裕ができる
住宅ローンの繰り上げ返済をする上で「返済額軽減型」を選んで繰り上げ返済を行うとします。
この場合、毎月のローン支払いが少なくなり、事業資金に余裕ができる効果が期待できます。文字通り、月々の返済額を軽減できるからです。

逆に、「期間短縮型」を選んだ場合は、毎月の住宅ローンの返済金額が変わることはありません。支払う期間が短くなるだけだからです。

「毎月の返済金額を減らしたい」と考えている場合には、選択を誤らないように注意が必要です。
2-2.完済までの支払う利息が少なくなる
住宅ローンの繰り上げ返済を「期間短縮型」と「返済額軽減型」のいずれの方法で行ったとしても完済までの支払う利息が少なくなる効果があります。
結果として、住宅ローンの返済元金と支払利息を合わせた「総返済金額」を少なく抑えられることに繋がります。
なお、総返済金額を繰り上げ返済で大きく減らしたい場合には、「返済額軽減型」よりも「期間短縮型」の方が大きな効果が認められますので、繰り上げ返済を実行する時の状況に合わせてケース・バイ・ケースで行うことが大切です。
2-3.住宅ローンを早く完済することで、精神的な負担が減る
住宅ローンの繰り上げ返済を「期間短縮型」で行った場合、結果として、繰り上げ返済を行わない場合に比べて早く完済できることに繋がります。
そのため、精神的な負担が減る効果が期待できます。
なお、「返済額軽減型」を選んだ場合は、毎月の返済金額が少なくなる効果が認められるものの、返済期間は変わりません。
住宅ローンを早く完済したいのであれば、「期間短縮型」の繰り上げ返済を選択する必要があります。
「住宅ローンは低金利のため、長期的に借りるほうが得」といったことを言う人がいますが、これは誤りです。
低金利であったとしても、返済期間が長ければ長い程、総返済金額は多くなるからです。そのため、住宅ローンを長く借りるのは「得」ではなくむしろ「損」であると考えてください。
賢く繰り上げ返済をしていきたいところです。
3.住宅ローンの繰り上げ返済は、自営業にとってデメリットもある
自営業という職業であるからこそ、住宅ローンの繰り上げ返済によって生じるデメリットもあり、考えられる内容は以下の通りです。
3-1.まとまったお金を繰り上げ返済することによって、余裕資金が少なくなる
住宅ローンの繰り上げ返済は、住宅ローンの融資を受けた金融機関によって異なりますが、一般に100万円単位などといった高額になってしまうこともあります。
そのため、100万円単位のまとまったお金を繰り上げ返済することによって、余裕資金が少なくなり、事業に投資しにくくなるデメリットが生じる危険性があります。
3-2.自分が病気になった場合、生活費が足りなくなる恐れがある
自営業の場合、会社員や公務員などと違い、通常、国民健康保険に加入していることが多いですよね。
万が一、病気になってしまった場合や交通事故などで大きなけがを負ってしまった場合などで業を行うことができない場合には、所得補償にあたる「傷病手当金」の支給がありません。
その結果、収入が途絶えてしまい生活費が足りなくなってしまう恐れがあります。
まとまったお金を繰り上げ返済に充てていなければ解決できることもある一方、このようなリスクに備えた対策があらかじめ必要であることは言うまでもありません。
3-3.住宅ローン控除による税金の減額が小さくなる
住宅購入の際に、金融機関から住宅ローンの融資を受け、一定の条件に該当する場合には、住宅ローン控除が受けられます。
しかし、住宅ローン控除の適用を受けている期間に繰り上げ返済をしてしまいますと、住宅ローン控除による税金の減額が小さくなるデメリットが生じます。
そのため、住宅ローンの繰り上げ返済を行う時は、住宅ローン控除の効果と繰り上げ返済の効果を比較検討し、住宅ローン控除の適用期間にあたる10年間を通じてどちらが得策なのか調べておくことが大切です。
こちらの比較検討は、専門的な内容が多いことから、FPや税理士といった専門家からのアドバイスや試算を依頼して行ってもらうことによって、確実かつ有利に住宅ローンの返済が行えることに繋がると考えられます。
4.繰り上げ返済は、融資から10年を過ぎたタイミングで検討するのも良い
住宅ローン控除は、原則として融資から10年間受けることができます。
このため、住宅ローン控除の適用が無くなる11年目から繰り上げ返済をすることによって、住宅ローン控除のメリットを最大限に受けながら、完済までの総返済金額を減らせる効果が期待できるのです。
なお、住宅ローン控除の効果は個々の所得によって効果が異なるほか、住宅ローンの繰り上げ返済効果につきましても、繰り上げ返済に充てる金額や選んだ繰り上げ返済の方法によって大きく異なることになるため、比較検討は慎重に行う必要があります。
4-1.繰り上げ返済は、選択した方法や納めるべき税額によって効果が異なる
繰り上げ返済は、選択した方法や納めるべき税額によって効果が異なることになります。
以下、参考例として、住宅ローンの融資を受けた初年度から毎年10万円ずつ10年間に渡って繰り上げ返済した場合と住宅ローン控除の適用が終了した11年目に100万円を繰り上げ返済した場合の違いを表にまとめて紹介します。
前提条件
- 住宅ローンの種類:フラット35
- 借入金額:3,000万円
- 固定金利:年2.0%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済(ボーナス払いなし)
- 毎年納めるべき所得税および復興特別所得税は合計で20万円とし10年間変わらないものとします
- 計算の便宜上、住民税は加味しません
期間短縮型を選択した場合
比較内容 | 毎年10万円ずつ10年間に渡って繰り上げ返済した場合 | 住宅ローン控除の適用が終了した11年目に100万円を繰り上げ返済した場合 |
10年間の住宅ローン減税金額 | 200万円 | 200万円 |
繰り上げ返済によって得られる35年間の利息軽減金額 | 約134万円 | 約59万円 |
合計節約効果 | 約334万円 | 約259万円 |
返済額軽減型を選択した場合
比較内容 | 毎年10万円ずつ10年間に渡って繰り上げ返済した場合 | 住宅ローン控除の適用が終了した11年目に100万円を繰り上げ返済した場合 |
10年間の住宅ローン減税金額 | 200万円 | 200万円 |
繰り上げ返済によって得られる35年間の利息軽減金額 | 約65万円 | 約26万円 |
合計節約効果 | 約265万円 | 約226万円 |
前提条件を踏まえて比較検討すると、住宅ローン融資を受けた当初から少しずつでも繰り上げ返済をした方が有利である結果になっていることが確認できます。
一方で、住宅ローンの金利が変動金利のように低金利の場合や1年あたりの繰り上げ返済する金額が多額である場合などは、逆に住宅ローン控除を10年間すべて適用した方が有利である場合もあることから、ケース・バイ・ケースで比較検討が必要であることがわかります。
借入金額3000万円(35年返済)、借入金利0.675%の場合
5.新たな借入を予定している場合は、返済負担率が高い理由から借入が不可能になる可能性もある
自営業であれば、職種などにもよりますが、運転資金や設備資金の新たな借入を追加で受けることを予定している場合も十分に考えられます。
しかし、住宅ローンの返済負担と事業にかかる借入の負担が結果として重いと判断された場合、いわゆる返済負担率が高いといった理由から事業にかかる借入が不可能になる可能性もあるため注意が必要です。
繰り上げ返済にまとまったお金を支出してからの借入ができない場合のリスクも考えられるため、お金の流れにあたるキャッシュフローには特に気を付けておく必要があるでしょう。
6.繰り上げ返済をすると、税務調査が入る?
自営業のように毎年確定申告をしている方は、時として、税務署からお尋ねがある場合や税務調査といって確定申告書を作成するに至った帳簿やその他の取引書類を確認されることがあります。
たとえば、自営業のように1年間の事業を通じて特殊な事情があったことによって大きく売上が伸びた場合やその他の合理的な理由がある場合には、実際に作成された確定申告書等の内容や出来事に整合性が取れていれば税務署からお尋ねや税務調査が入ることは基本的にありません。
一方で、前述したような特殊な事情が無いのにもかかわらず、短期間で大きな額の繰り上げ返済をすると、時として「申告していない所得による返済ではないか」「身内や第三者からの贈与による金品の取得ではないか」などの理由から、場合によっては税務署からのお尋ねや税務調査がある懸念も生じることは確かです。
とはいえ、基本的に税務調査が入る場合というのは、前年や前々年などと著しく売上高やその他の数値に変動がある場合などで、その理由が明らかでない場合や理由に整合性が取れていない場合が多い傾向があり、基本的に毎年正しく確定申告を行っていることによって、何ら疑われることや税務調査が入るということはありません。
また、贈与によって金品を取得し、そのお金を活用して繰り上げ返済をした場合は、贈与税の申告期限までに申告をすることによって、税務署は、贈与によってお金を取得し、それを原資に繰り上げ返済をしたと容易に判断できるのです。
このことから、同じように何ら疑われることや税務調査が入るということはありません。
併せて、自営業の方で、毎月の記帳代行や顧問契約を交わしている税理士がおられる場合におきましては、確定申告書に税理士の署名や税務代理権限証書が添付されることになります。
このため、税務署側が税務調査を行う前に税理士に対して意見聴取することになっているため、非常に強い効果が認められます。
話が難しくなってしまいましたが、まとめると、住宅ローンの繰り上げ返済をしたとしても税務調査が入るといったことは基本的にありません。
しかし、やましいことをしている場合は、言うまでもなく税務署側に知られてしまう場合があることはあらかじめ肝に銘じておく必要があるでしょう。
まとめ
自営業の方が、住宅ローンを繰り上げ返済するメリットやデメリットについて解説を進めてきましたが、シミュレーション結果より、住宅ローン控除が絡みますと一概にどちらが良いとは言い切れないことがおわかりいただけたと思います。
また、自営業であるからこそ運転資金や設備資金の借入金が絡むことも踏まえますと、住宅ローンの繰り上げ返済を考えた時、利息の軽減や総返済金額が減るからといった単純な理由で繰り上げ返済を実行することは最善策とは言い切れないことも確認できました。
住宅ローンの返済や繰り上げ返済は計画的に行わなければならないことは言うまでもありませんが、自営業の場合、会社員や公務員などと異なり、なおさら気を付けなければならないことが多々あるため、慎重に慎重を重ねた繰り上げ返済をすることが求められるのは確かです。
併せて、本記事で紹介したような比較検討や専門的な内容も絡んでくることから、特に自営業で住宅ローンの繰り上げ返済を今後検討される方は、FPや税理士といった専門家の協力を得ながら最も有利になる方法を選択する必要性があるとも考えられます。