民間の金融機関における住宅ローンの審査基準の1つに、「団体信用生命保険に加入できる健康状態であること」というものがあります。
団体信用生命保険(以下、団信とします)とは、保険の対象となる人(被保険者と言います)が、死亡した場合や高度障害に陥った場合に、団信の保険金で残っている住宅ローン債務を返済するための生命保険です。

仮に住宅ローンの返済期間中に、債務者が死亡や高度障害で債務を返済できなくなった場合、多大な損失を被ってしまいます。
このような貸し倒れのリスクを回避するために、多くの金融機関は住宅ローンの申込者に対して、団信への加入を住宅ローンの審査基準に加えているわけです。
そこで本記事では、住宅ローンの審査に欠かすことのできない「健康状態」に関係する団信について詳しく解説していきます。
住宅ローンの審査の中でも、健康状態は大きな指標となるため、ここで学んでおきましょう。
目次
1.住宅ローンの審査は年収や勤続年数だけを確認されるわけではない
通常、住宅ローンの審査におきましては、年収や勤続年数だけを確認されるわけではありません。様々な内容を、総合的に判断されて決定されるものです。
出典:国土交通省・平成27年度民間住宅ローンの実態に関する調査より一部抜粋
国土交通省が、住宅ローンの融資を実行している金融機関などにアンケート調査を行った結果です。
ご覧の通り、「健康状態」を重視する割合が高くなっていることが確認できます。このことから、年収や勤続年数だけでなく、「健康状態が良好であること」も重要なのが分かります。
また、融資を行う際に考慮する項目の割合がどの割合も高いことから、特定の項目に特化しているのではなく総合的に様々な項目を審査確認して判断していることもこのデータより推測することができます。
1-1.団体信用生命保険の加入判断は、銀行と提携している保険会社が審査をする
団体信用生命保険は、銀行が審査を行うのではありません。銀行と提携している、保険会社が審査をすることになります。審査といっても、生命保険に加入する際の手続きと基本的には同じです。
具体的には、病歴などについて「告知」をし、団信の加入条件に問題がなければ加入可能といった流れになります。
なお、告知の解説につきましては、「4.団信の申込書兼告知書と告知の主な内容とは」で後述していきますので、そちらを参考にして下さい。
2.団体信用生命保険(団信)の仕組みと現状

冒頭でも軽く解説しましたが、団信は、保険の対象となる人が、死亡した場合や高度障害に陥ったときに、団信の保険金で残っている住宅ローン債務を返済するための生命保険です。詳しく知りたい場合、以下の記事を参考にしてください。
団信保険料は、「住宅ローンの金利に上乗せする場合」「団信保険料として毎年保険料を支払う場合」「無料」などの取り扱いがあり、申し込んだ金融機関や選んだ住宅ローンの種類によって異なります。
通常、団信保険料だけでも数十万円以上もしますが、「住信SBIネット銀行」であれば保険料無料なのでお勧めです。しかも、全疾病保障も無料で付帯されるので驚きです。
なお、団信は死亡や高度障害を起因として保険金が支払われる生命保険です。
そのため、加入するには一般の生命保険と同様に、健康な状態でかつ糖尿病やガン、高血圧、精神系の病気などの履歴や状態ではないことが求められます。
そのため、このような条件を満たさない場合、団信の審査に落ちるだけでなく、住宅ローンの融資実行がなされないことになります。
ただし現状では、このように一般の団信に加入できない方のために、病歴や持病がある方用の団信というものも取り扱われています。実際に、広く多くの方が団信に加入して、住宅ローンの融資実行がなされています。
詳細につきましては、「6.団信に加入できなかった場合の対策方法」で解説をしていきます。
3.高度障害状態とは
高度障害状態についての定義は様々ありますが、ここでは団信における高度障害状態について考えていかなくてはなりません。
公益財団法人生命保険文化センターでは、高度障害状態について以下のように解説しています。
被保険者が、責任開始期(日)以後の病気やケガを原因として、両眼の視力や言語機能を永久に失ったときなど、下記のいずれかの障害状態に該当した場合に、死亡保険金と同額の高度障害保険金が受け取れます。
高度障害保険金の受取対象となる高度障害状態
- 両眼の視力を全く永久に失ったもの
- 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
- 中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 両上肢とも手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
ざっくり解説しますと、あくまでも加入した団信の約款に記載されている高度障害に該当していることが要件になります。
団信に加入した後に上記の要件に該当することで、高度障害と認定され団信の保険金が受け取れる可能性が極めて高いと考えることができます。
なお、高度障害状態に関してさらに詳しく知りたい場合、以下の記事を参考にしてください。
4.団信の申込書兼告知書と告知の主な内容とは
団信は、生命保険の一種であることから、申込書や告知書への署名および捺印が必要になります。以下、日本郵政共済組合の「団体信用生命保険・申込書兼告知書」を例にこれらの内容について解説していきます。
なお、それぞれの保険会社によって団信に加入する際の書式は異なりますが、問われる内容につきましては、相違ないと考えて差し支えないでしょう。
4-1.告知事項1つ目:3か月以内の治療や投薬の有無
「3か月以内の治療や投薬の有無」は、病気の大小にかかわらず正しく告知および記入して下さい。
ちょっとした風邪で病院へ行ったことをはじめ、毎日服用している薬がある場合などは記入するようにしましょう。
4-2.告知事項2つ目:3年以内の手術や2週間以上に渡る治療と投薬の有無
「3年以内の手術や2週間以上に渡る治療と投薬の有無」とは、以下の表にあてはまる病気で3年以内に手術をした場合、または2週間以上に渡る治療や投薬があったか否かを答えることになります。
心臓・血圧 | 狭心症、心筋こうそく、心臓弁膜症、先天性心臓病、心筋症、高血圧症、不整脈 |
脳 | 脳卒中(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)、脳動脈硬化症、その他の脳の病気 |
精神・神経 | 精神病、うつ病、神経症、てんかん、自律神経失調症、アルコール依存症、認知症 |
肺・気管支 | ぜんそく、慢性気管支炎、肺結核、肺気腫、気管支拡張症 |
胃・腸 | 胃かいよう、十二指腸かいよう、かいよう性大腸炎、クローン病 |
肝臓・膵臓 | 肝炎、肝硬変、肝機能障がい、すい臓炎 |
腎臓 | 腎炎、ネフローゼ、腎不全 |
目 | 緑内障、網膜の病気、角膜の病気 |
がん・腫瘍 | がん、肉腫、白血病、しゅよう、ポリープ |
その他 | 糖尿病、リウマチ、こうげん病、貧血症、紫斑病 |
子宮等 | 子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、卵巣のう腫 |
4-3.告知事項3つ目:手足や視力などの機能障害など
「手足や視力などの機能障害など」とは、告知事項の内容のどこかに身体の障害があるか否かを問われています。
これについて、正しく回答することで足ります。
5.告知に関する重要事項
団信へ加入する上で、「告知」に関する2つの重要事項について、ここでは解説していきます。
ポイントは、「正確」「誠実」になるため、以下、重要事項を詳しく見ていきましょう。
5-1.告知事項は詳細・正確に答えること
団信の告知におきまして、問われた期間中に仮に風邪をひいて病院へかかった場合があてはまるとしても、しっかりとその情報を「正確」に伝えるようにして下さい。「大したことがない」と自己判断をしてはいけないということです。
このような行為は、後述する「告知義務違反」にあたります。
実のところ「団信の審査は非常に緩い」とされておりますが、自ら告知義務違反をする場合も時としてあり非常に危険です。
5-2.虚偽の告知が発覚した場合、告知義務違反となり、保険金は下りない
告知義務違反とは、問われた告知事項に対して虚偽の回答をすることを言います。
仮に、告知義務違反をすることで、団信に加入することができたとします。
しかし、後に「告知義務違反」であることが発覚した場合、当然に保険金が支払われることはありません。つまり、残された遺族が引き続き住宅ローンの返済を続けていかなければならないことになります。
告知義務違反は、必ず知られてしまうことを肝に銘じておく必要があります。
もし、団信に加入できないとしても、解決できる対策方法があります。そのため、おかしな考え方を抱くことや、リスクを自ら犯す必要はなく「誠実」でなければならないのです。
6.団信に加入できなかった場合の対策方法
先に解説した団信は、いわゆる「一般の団信」です。
この項では、病気や持病の関係で一般の団信に加入できなかった方のための対策方法を、ここでは解説していきます。
具体的な対策から、将来を見据えた対策まで全部で3つ紹介させていただきます。この中から、あなたの考えに沿ったものを選んで、検討してみることをおすすめ致します。
6-1.健康状態に不安がある場合、「ワイド団信」を選択するのも一策
ワイド団信とは、健康状態のおもわしくない方が加入しやすい団信です。先に紹介した審査条件がさらに緩くなったものになります。
文字通り、加入できる健康状態の幅が「ワイド」になった団信であると考えてください。
ただ、一般の団信に比べて、負担が多くなる(金利上乗せで0.3%程度)デメリットがあります。
しかしながら、「一般の団信に加入できず住宅ローンの融資実行がなされない」といったリスクに比べると、正に「朗報」という表現が相応しいとも言えるでしょう。
なお、すべての金融機関でワイド団信を取り扱っているわけではありません。
そのため、ワイド団信を取り扱っているか否かについては、住宅ローンの申し込みを検討している金融機関のホームページを確認するか直接問い合わせてみることをおすすめ致します。
6-2.団体信用生命保険に入らなくても良いフラット35を選択するのも一策
融資実行から完済までの金利が変わらないフラット35は、団信の加入が任意となっています。したがいまして、団信の加入が強制とされている多くの住宅ローンに比べて、フラット35は団信が加入できない方でも融資を受けやすいメリットがあります。
1つあらかじめ申し添えておかなければならないこととして、あくまでも団信に加入しなくとも良いということではありません。
万が一の対策は、検討しなければならないことを肝に銘じておくようにして下さい。
具体的には、後述する「収入保障保険」や「定期保険」への加入があります。
6-3.健康な内から収入保障保険や定期保険に加入しておくことも一策
病気や持病の関係で一般の団信へ加入できない方は、ワイド団信への加入を検討するほか、生命保険会社が取り扱っている収入保障保険や定期保険の加入を検討します。
当然、病歴や病状の場合によっては必ず加入できるものではありません。それぞれの生命保険会社によって保険に加入するための要件が異なるため、複数の保険を取り扱っている保険代理店などに聞いてみる価値は十分あると思います。
また、将来、住宅購入を検討されている方は、健康な内から収入保障保険や定期保険に加入しておくことも一策だと考えます。
もしもの時の家族に対する保障をはじめ、子どもたちの教育費用、団信の代わりなどのように幅広い目的で使え、考え方1つで柔軟に利用することができます。
収入保障保険や定期保険は、「大きな死亡保障」に少ない保険料で確保できるメリットが魅力的です。
ただ、支払保険料はすべて掛け捨てであるため、将来を見据えた計画的な加入が大切なポイントになります。
保険が有効な期間、いわゆる「保険期間もしくは保障期間」をしっかりと決めて、若い内から備えておくことで、世帯にとって全体的に大きなメリットが得られます。
まとめ
本記事では、住宅ローンの審査に欠かすことのできない健康状態に関する団信について、詳しく解説させていただきました。本記事の要点は以下の通りです。
- 住宅ローンの審査基準に健康状態であることが求められる
- 民間の金融機関が取り扱っている住宅ローンは団信加入が条件である場合が多い
- 団信加入において告知義務違反は厳禁
- 病気や持病がある方も加入しやすいワイド団信やその他の対策もある
- 将来を見据えた対策をあらかじめ取っておくと尚良い
住宅ローンの審査におきまして、国土交通省の平成27年度民間住宅ローンの実態に関する調査を引用して解説しました。平成24年度の同調査結果では、「健康状態」を重視する傾向が平成27年度よりも低かったことが確認できております。
つまり、住宅ローンを取り扱っている金融機関全体で、住宅ローン申込者の「健康状態」を重視しているという表れです。
これから住宅ローンの申し込みを検討されている方は、今以上に健康に気を付けなければならないことを意味します。
いつ、どのような病気やけがをするのか誰にも分かりませんが、健康状態におきましては、できる限り若い内から住宅ローンを申し込む方が有利であると言えるでしょう。