住宅ローンをこれから検討されている方の多くは、「住宅ローンは年収の何倍まで借りられる?」といった疑問を抱いている方が多い傾向にあります。
専門家の立場から申し上げますと、このような考え方は、住宅ローンを検討する上で「誤った考え方」です。
ただ、逆の発想で、「住宅ローンは年収の何倍までなら借りられるのか?」を合理的に検証してみるのは、住宅ローンをこれから検討されている方々にとって参考になると考えることもできます。
そこで本記事では、住宅ローンは年収の何倍まで借りられるのか、目安を合理的に検証し紹介していきたいと思います。
目次
1.住宅ローンは年収の何倍までなら借りられるのか?合理的に検証します
「住宅ローンは年収の何倍までなら借りられるのか?」を合理的に検証する上で、住宅金融支援機構が取り扱っているフラット35の基準を利用して検証を進めていきたいと思います。
なお、フラット35の基準は、以下の通りです。
年収 | 400万円未満 | 400万円以上 |
---|---|---|
基準 | 30%以下 | 35%以下 |
引用:フラット35 平成19年10月1日以降のお申込みからのご利用条件
上記の年収基準とは、返済負担率のことを表しており、フラット35では、年収別に応じて返済負担率が「30%以内」もしくは「35%以内」と決まっています。
たとえば、年収が400万円の場合、返済負担率が「35%以内」となりますので、1年間を通して借入金の返済金額を140万円以内(400万円×35%)に抑えなければならないことを意味しています。
このようなルールを踏まえまして、次項では、住宅ローンは年収の何倍までなら借りられるのか?もう少し詳しく検証を進めていきます。
2.よく聞く「年収の5倍」「返済負担率25%」は本当なのか?合理的に検証します
これから住宅ローンの申し込みを検討されている方は、インターネットの情報サイトや書籍、人の話などから、様々な情報を仕入れていることと思います。
その中でも、「住宅ローンの借入金額は年収の5倍まで」「返済金額は返済負担率25%程度に留める」などといった内容を目にしたことがある人もおそらく多いのではないでしょうか。
そこで本項では、これらの情報が正しいのか、誤っているのかについて、先に解説したフラット35の基準とシミュレーターを用いて合理的に検証を進めていきたいと思います。
なお、返済負担率とは、年収に占める年間返済金額の割合のことをいいます。
たとえば、年収500万円で返済負担率が30%であった場合、返済金額は以下のような計算式で求めることができます。
500万円 × 30% = 150万円
150万円 ÷ 12ヶ月 = 125,000円
年収500万円の人が返済負担率30%以内に抑えるには、1ヶ月あたり125,000円以内の返済に留めておく必要があるといった見方になります。
参考:住宅ローンの毎月々の返済金額平均と年収に見合う返済負担率とは
2-1.年収の5倍で考えた場合の借入可能額
はじめに、「住宅ローンの借入金額は年収の5倍まで」といった解説は正しいのか検証を開始していきます。
検証における各種条件は以下の通りとします。
- 年収:400万円
- 借入金額:2,000万円(年収の5倍)
- 住宅ローンの種類:フラット35(取り扱い金融機関は、住信SBIネット銀行
とします)
- 頭金:300万円
- 金利:1.12%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済(ボーナス払いなし)
- その他:特別の事情および他の借入金はないものとします
2-1-1.手順1:返済負担率より返済金額の限度額を確認します
年収400万円であることから、最大返済負担率は「35%」になります。
よって、140万円(400万円×35%)が1年間における最大返済金額となることが確認できます。
したがって、1ヶ月における最大返済金額は、116,666円(140万円÷12ヶ月)となります。
2-1-2.手順2:融資条件から1ヶ月の返済金額を計算します
検証における各種条件をシミュレーターや金融電卓にあてはめることで、1ヶ月の返済金額を簡単に導き出すことができます。
なお、今回の場合、1ヶ月あたりの返済金額は「57,582円」となります。
2-1-3.手順3:年収に対する返済負担率を算出します
1年間に返済する元利合計は、690,984円(57,582円×12ヶ月)となります。
この金額から、年収400万円に対する返済負担率を計算すると17.27%(690,984÷4,000,000)×100%になります。
2-1-4.検証結果を考察する
この結果を踏まえまして「住宅ローンの借入金額は年収の5倍まで」といった考えは、決して正しい情報ではなく、百歩譲って、住宅ローンの金利が高い時代であった昔の話と考えるのが合理的でしょう。
現在の住宅ローン金利の情勢などを踏まえますと、年収の5倍を超えた融資を受けたとしても100%無理な借り入れと言い切ることはできず、むしろ住宅ローンの返済計画がしっかりと立てられていれば問題がないと判断されます。
ちなみに、年収400万円の方が、ご希望の金融機関に対してシミュレーションの条件で申し込みを行った場合、他の審査基準で問題がなければ余裕で審査が通過するものと予測されます。
改めて、これらの検証の結果から、「住宅ローンの借入金額は年収の5倍まで」といった考えは、「誤り」と解するのが妥当でしょう。
2-1-5.参考:フラット35シミュレーターから算出された借入可能額を紹介
こちらは、参考となりますが、フラット35のシミュレーターから同条件で算出された借入可能額は以下の通りです。

参考:フラット35 年収から借入可能額を計算よりシミュレーション
2-2.年収400万円の人が返済負担率25%で計算した場合
今度は、「年収400万円の人が返済負担率25%で計算した場合」正しい住宅ローンの組み方であるのか検証を開始していきます。
検証における各種条件は、前項のシミュレーションと同様とします。
- 年収:400万円
- 借入金額:2,000万円(年収の5倍)
- 住宅ローンの種類:フラット35(取り扱い金融機関は、住信SBIネット銀行とします)
- 頭金:300万円
- 金利:1.12%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済(ボーナス払いなし)
- その他:特別の事情および他の借入金はないものとします
2-2-1.手順1:1年間の返済金額および1ヶ月の返済金額を算出します
1年間の返済金額 400万円 × 25% = 100万円
1ヶ月の返済金額 100万円 ÷ 12ヶ月 ≒ 83,333円
2-2-2.検証結果を考察する
住宅ローンの返済負担率は25%以内に抑えるという話はよく聞きますが、あくまでも最終的な融資の判断は、申し込みを行った金融機関が決定するべきものになります。
そのため、住宅ローンの審査において重視される返済負担率におきましても、総合的な判断の下、プラスの要素、マイナスの要素に作用すると考えるのが自然でしょう。
ちなみに、年収400万円でフラット35の返済負担率の上限は35%に設定されていることを踏まえますと、返済負担率が25%で抑えられている点はプラスに作用するものと考えて良いと思います。
返済負担率は、低ければ低いほど年収に占める借入金の返済が少ないことを表す割合であることから、ざっくり解説してしまいますと、とにかく低ければ低い程、有利であることは間違いありません。
2-3.2つの検証結果をまとめます
内容 | 住宅ローンの借入金額は 年収の5倍までで 計算した場合 | 年収400万円の人が 返済負担率25%で 計算した場合 |
---|---|---|
1ヶ月の返済金額 | 57,582 | 83,333 |
返済負担率 | 17.27% | 25% |
返済負担率限度 (フラット35の場合) | 35% | |
総合判断 | 〇 | 〇 |
2つの検証結果をまとめてみましたが、住宅ローンの融資を受ける私たちの立場と住宅ローンを融資する金融機関側の立場では、双方がどちらもメリットを得られることが求められると考えることもできます。
たとえば、融資を受ける私たちとすれば、当然に1ヶ月の返済金額が少なければ少ないほど良いと考えます。
一方、金融機関側としては、毎月確実な返済を受けるためにも返済負担率が低い方がその確率が高まると考えます。
上記表の結果を見てお分かりのとおり、「返済負担率が低ければ1ヶ月の返済金額も少ない」ことが確認でき、このようなルールを意識した住宅ローンの借入ができるとするならば、容易に住宅ローンにおける「返済負担率の審査」に合格することが可能と推測できます。
3.住宅ローンが無理なく返済できる返済負担率の考え方
これまで、「住宅ローンの借入金額は年収の5倍までで計算した場合」と「年収400万円の人が返済負担率25%で計算した場合」の2つを検証し、それぞれの返済金額や返済負担率を確認しました。
実のところ、住宅ローンが無理なく返済できる返済負担率の考え方で重要な点は、「自分の懐具合を中心に返済金額を考えること」になります。
自分の懐具合を中心に返済金額を考えるということは、少なからず自分が苦しい・厳しいと感じる金額を設定することはないと考えるのが一般的です。
そして、考えられた返済金額は、自ずと余裕を持った返済金額になると推測されます。
先に解説をさせていただきましたように、返済負担率が低ければ1ヶ月の返済金額も少ないことから、「自分の懐具合を中心に返済金額を考えること」は、知らず知らずのうちに、住宅ローンが無理なく返済できる返済負担率の考え方をしっかりと守っていることになるわけです。
4.住宅ローンを検討する際に絶対に欠かしてはいけないこと
これから住宅ローンの借入を検討している方が、絶対に欠かしてはいけない考え方が2つあります。
1つ目は、「住宅ローンは借入可能額ではなく、返済可能額で考える」ことです。
これは、仮に年収に応じた住宅ローンの借入可能額まで目一杯借入をすることができたとしても、住宅購入後にかかる固定資産税や都市計画税といった維持費はもちろん、子どもの教育費や毎日の生活費も併せて考えますと、おそらく窮屈な生活を強いられる可能性が生じます。
理想の住宅購入と引き換えに、何十年もの長期に渡って、お金に余裕のない窮屈な生活を強いられたとしますと、人生の楽しみをどのようにして得るのかまで考えなければなりません。
また、住宅ローンの返済が苦しいといった理由で、自分達だけではなく子どもたちの将来に左右するような影響を与えることは、はたして親として正しい判断であるのか、改めて自問自答しておく必要もあるでしょう。
2つ目は、「住宅ローンは、物件価格だけでなく、金利や諸経費・保険・借入年数なども考慮しなければならない」ことです。
いわゆるフルローンと呼ばれるような、物件購入価格と諸経費や保険などのように住宅購入諸費用をすべて合わせて借りる場合は、借入金額が大きくなるほか、フラット35の場合は物件購入価格のみが融資の対象となるため、この辺は特に注意が必要なポイントです。
巷では、「住宅ローンをフルローンで借りてはいけない」といった情報が多くのサイトで数多く掲載されておりますが、専門家FPの実務上の見解によると、あくまでも住宅ローンの返済計画が正確かつ合理的であれば、特段、そのような情報を卯のみにするのは正しい判断とは言えないようです。
仮に理想の住宅をフルローンで購入したとしても、無理のない余裕を持った住宅ローンの返済を最優先に考えておくことが重要だと分かります。
まとめ
本記事では、「住宅ローンは年収の何倍まで借りられるのか」といったことについての目安を合理的に検証し紹介させていただきました。
現状の住宅ローンの金利事情を加味しますと、少なくとも年収の5倍を超えて借入しても問題はないと考えられます。
この理由として、最も大きな理由が「金利の低さ」です。
住宅ローンの返済金額は、借入金額・金利・返済期間・返済方法といった条件によって決まりますが、一昔前に比べますと、やはり「金利の低さ」は返済金額の低下に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもありません。
そのため、仮に年収の5倍の住宅ローンを借入したとしても、むしろ余裕を持った返済をすることができる可能性が高いくらいだと考えることもできます。
あくまでも大切なことは、「住宅ローンの借入金額は年収の5倍まで」や「返済負担率は25%以内に抑える」などといった型にはめて考えることではなく、「自分の懐具合を中心に返済金額を考えること」になります。
つまり、余裕を持つことができる返済金額がいくらなのかを考えるということです。
同じ年収であったとしても、家族構成や置かれている立場などがすべて異なりますので、たとえば、返済負担率25%で1ヶ月の返済金額83,333円について、余裕のある人、厳しい人はそれぞれいるはずです。
自分が1ヶ月あたりいくらの返済が理想なのかを正確に把握し、住宅ローンの借入金額を決定することが合理的で望ましいことは言うまでもありません。