自営業の方で、「これから住宅ローンを申し込んで住宅購入したい」と検討されている方も多いと思います。
しかし、中には、事業を営む上で配偶者を専従者として、夫婦が同じ仕事で働いているといった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
通常、このような場合は、所得税法に基づいて「青色申告承認申請書」や「青色事業専従者給与に関する届出書」を管轄の税務署へ提出して、専従者給与を支払うことについて認めてもらっていることと思います。
そこで本記事では、これらの届出を済ませている自営業の方が住宅ローンを申し込むにあたり、その専従者給与が住宅ローン審査に与える影響・注意点について、解説を進めていきます。
目次
1.自営業の場合、金融機関によっては専従者給与を合算できる
住宅ローンの融資を受けるためには、金融機関が行う審査に通過することが必要になります。
その大前提として、「住宅ローンの希望借入金額」と「収入」のバランスが合っていなければなりません。
つまり、収入に対してあまりにも過大な希望借入金額である場合は、住宅ローン審査に通過しないことを意味します。
このような場合、1つの対策として「収入合算をする」という方法があります。
たとえば、購入する住宅に同居することを前提に、本人と配偶者・本人と両親・本人と子などの収入を合算して住宅ローンの審査を申し込むことは、ほとんどの金融機関で認められている方法になります。
これは、自営業の方で、かつ、配偶者などが専従者であったとしても取り扱いは同様です。
2.専従者の収入(所得)は「給与収入」として扱う
仮に、自営業の方で、専従者の方との収入合算を行う場合、申込者本人は、自営業としての事業所得で収入を審査されます。
しかし、専従者の方の収入は、毎月受け取っている専従者給与の金額で審査をされることになります。
つまり、
- 本人は事業所得
- 専従者は給与収入
上記での審査となるため、収入の見方が異なる点に注意が必要です。
2-1.専従者の収入を証明する書類は、「公的収入証明書の原本」
自営業の方が、専従者の方と収入合算をして住宅ローンへ申し込む場合、自分だけでなく専従者の給与を証明する書類が必要となります。
この書類とは、「公的収入証明書の原本」のことであり、これを住宅ローンの申し込みを行う金融機関へ提出しなければなりません。
ここで言う「公的収入証明書の原本」とは、地方自治体によって名称が異なりますが、「所得証明書」または「住民税決定通知書」のことを指します。金融機関が指定した年分のもので、発行から3ヶ月以内の原本を提出します。
以下、参考までに、フラット35で収入合算をする場合に必要な公的収入証明書についてQ&Aがありますので紹介しておきます。

(出典:フラット35 ご利用条件について 事業専従者の場合の収入はどう見るのですか)
2-2.専従者給与が103万円以下で非課税の収入の場合、非課税所得証明書でもOK
自営業で専従者給与を支払っている方の中には、節税対策として、専従者給与を所得税が課税されない103万円以下で調整をかけている方もおられると思います。
このような場合であったとしても、専従者の収入を証明するために「公的収入証明書の原本」の提出が必要です。
地方自治体によって名称が異なりますが、市町村役場で発行してもらう「非課税所得証明書」の提出を、「所得証明書」または「住民税決定通知書」の提出に代えて行うことも可能です。
ただし、あくまでも住宅ローンを申し込んだ金融機関の指示にしたがって、必要な年分の公的収入証明書を取得するようにして下さい。
3.専従者と住宅ローンの収入合算をする上での注意点
住宅ローンの申し込みを行う上で、専従者の収入を合算できることは、これまでの解説からお分かりいただけたと思います。
しかし、そもそも必ずしも専従者の収入を合算できるとは限らないことをはじめ、その他の注意点があることをあらかじめ知っておかなくてはなりません。
そこで本項では、専従者と住宅ローンの収入合算をする上での注意点について、いくつか解説を進めていきます。
3-1.専従者の個人信用情報に問題があった場合は、収入合算することができない
専従者と収入合算をするためには、本人のみならず、住宅ローンの連帯債務者となる専従者の方の「個人信用情報」に問題がないことが大前提です。
個人信用情報とは:借入や割賦(かっぷ:何回かにわけて支払うこと)といった信用取引の履歴のことを言います。
たとえば、以下のような場合は、申し込みを受けた金融機関の判断になるものの、専従者との収入合算が難しくなります。
- 専従者に過去の借金延滞や分割払いの遅延といったことによって、個人信用情報に事故歴がある
- 専従者が多額の借金を抱えている
- 専従者の収入が少ない
- 専従者の個人信用情報に事故歴はないものの、度々、返済が遅延するなどといった何かしらの問題がある など
上記のような内容にあてはまる場合は、専従者との収入合算ができない可能性が極めて高まります。
つまり、希望通りの借入ができないことも念頭に入れておかなければなりませんので注意が必要です。
3-2.専従者と将来に渡って共働きが続くとは限らないリスクが生じる
一般に、夫婦で連帯債務をする場合の注意点として、出産・育児といった妻の収入が一時的に無くなったり少なくなったりした時にどのようにして対応するのか、といった問題が発生します。
自営業の方で配偶者が専従者ということであったとしても、同じような問題を抱えることは確かです。
職種や働き方によって左右される部分もありますが、この辺をどのようにして乗り切るのか考えておく必要はあるでしょう。
あわせて、専従者と収入合算をするということは、本人の住宅ローン債務と専従者の住宅ローン債務のように個々で住宅ローン債務を抱えることになる場合も考えられます。
このような場合のリスク回避策として、専従者が返済途中で死亡や高度障害に陥った場合の「生命保険」への加入も検討しておかなければならないことに注意が必要です。
住宅ローンの借り方によって違いが生じ、一般に主債務者は、団体信用生命保険に加入します。
しかしその一方で、連帯債務者は、団体信用生命保険に加入できない場合もあるのです。この辺は、住宅ローンを申し込みする予定の金融機関へあらかじめ確認しておくことが望ましいでしょう。
3-3.専従者との持分割合に注意
専従者と収入合算をして住宅ローンを借入する場合、土地や住宅における「自己の持分」と「抱える住宅ローン債務」のバランスが取れていなければなりません。
たとえば、自営業の夫の年収(所得)が600万円で妻の収入(専従者給与)が200万円であった場合を考えてみましょう。持分割合を決定する上で明確なルールというものは定められていないものの、一般に、収入と持分を同じ割合にしていれば問題が生じることはありません。
- 夫600万円:妻200万円
- 持分割合 3:1
住宅購入時に所有権移転登記をする際、夫の持分「4分の3」、妻の持分「4分の1」であれば、収入と持分のバランスが取れており何ら問題が生じることはありません。
所有権移転登記とは:土地や建物を購入した際、その所有権が売主から買主(自分)に移ったことを明確にするために行う登記です。
一方、夫の持分が「10分の1」、妻の持分が「10分の9」などのように過度な持分割合に設定した時はどうでしょうか。
このようにした理由に明確な理由が無い場合は、夫から妻に対する「贈与」にあたり、贈与税が発生することになるため注意が必要です。
この注意点に関しましては、さほど問題のないものになると考えられます。
ただ、何か特別な事情がある場合で、収入に合った持分割合に設定しない時は、あらかじめ税理士などの専門家へ聞いてみることが望ましいでしょう。
3-4.専従者給与が自分(住宅ローンを申し込む人)の所得を上回っている場合
住宅ローンを収入合算して申し込みをする場合、一般に収入が多い人を「主債務者」とし、相手を「連帯債務者」とするのが一般的です。
これを踏まえまして、以下、特殊な事例となりますが、専従者給与が自分(住宅ローンを申し込む人)の所得を上回っている場合の取り扱いについて紹介します。
個人事業主の住宅ローン審査(専従者と収入合算)について教えて下さい。
事業主よりも専従者の年間所得が上回って確定申告している場合、例え収入合算で高い水準を保っていても銀行は事業主の収入を見て審査をするものでしょうか?
上記質問に対する回答につきましても、わかりやすく、かつ、正しい回答であることから、そのまま引用して紹介させていただきます。
一般的に会社員でも債務者の収入より、収入合算者の収入が多くても債務者の収入が上限です。債務者300万円、収入合算者が500万円の場合は、合算収入は600万円、銀行によって収入合算者は1/2として見る場合もあります。個人事業主さんなら、会社の業績も審査対象です。
専従者と収入合算をする場合は、やはり本人が「主債務者」、専従者が「連帯債務者」となるパターンが望ましいと言えます。
上記事例のように特殊な場合におかれましては、収入合算に縛りが生じてしまう可能性があるのです。
また、本人が「主債務者」、専従者が「連帯債務者」となるパターンであったとしても、回答にもありますように、銀行によって収入合算者は1/2として見る場合もあるのです。
このため、収入合算をしても希望借入金額に届かない場合もあると考えてください。
また、仮に、収入合算によって借入することができたとしても、将来に渡って苦しい返済を求められるようなことも考えられるため、特に注意が必要です。
3-5.専従者が、「連帯債務者」なのか「連帯保証人」なのかによって大きく変わる
専従者と収入合算をする場合、専従者が、「連帯債務者」なのか「連帯保証人」なのかによって大きく変わることになります。
特に、本人および専従者双方が「住宅ローン控除」を適用したいと考えている場合には注意が必要です。
具体的には、以下の違いがあります。
- 連帯債務者の場合:双方が住宅ローン控除を適用できる
- 連帯保証人の場合:住宅ローン控除は、本人のみ適用でき、専従者は適用されない
先の例のように、債務者が300万円、収入合算者が500万円といった例の場合や、主債務者および収入合算者のいずれも税負担が強いられるような場合におかれましては、家計全体を考慮した時、著しく不利益を被る場合もありますので注意が必要です。
4.専従者給与を合算してもらえる金融機関は?
住宅ローンの収入合算は、金融機関によってできるところとできないところがあると言われております。
しかし、実際のところ、すべての金融機関で収入合算ができると言っても過言ではないと思われます。
ただし、先に解説しましたように、収入合算をする上で「何かしらの問題が生じている場合」には、収入合算ができません。
また、住宅ローンの収入合算は、「金融機関によってできるところとできないところがある」といった情報を混同している方も、多く見受けられるものと推測します。
以下、参考までに「住信SBIネット銀行」・「
じぶん銀行」・「ARUHI」・「新生銀行」の住宅ローンでは、収入合算ができるのかどうかについて、それぞれのホームページをもとに、表へまとめて紹介します。
金融機関 | 収入合算の可否 |
住信SBIネット銀行 |
〇 |
〇 | |
ARUHI | 〇 |
新生銀行 | 〇 |
収入合算は、上記すべての金融機関で可能であることが確認できます。
しかし、連帯債務者ではなく連帯保証人としての取り扱いになっている場合も見受けられましたので、この辺をあらかじめしっかりと確認しておくことが極めて重要です。
なお、収入合算につきましては、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
自営業の方が、専従者と収入合算をして住宅ローンを申し込むことによって、「希望借入金額を融資されやすくなる」メリットが得られます。
さらに、双方が「住宅ローン控除を受けられる」メリットも得られることから、専従者給与が住宅ローン審査に与える影響はプラスの要素が大きいことは確かです。
ただし、以下の注意点があることは、知っておく必要があると言えます。
- 必ずしも専従者と収入合算ができるとは限らない
- 必ずしも専従者が住宅ローン控除を受けられるとは限らない
これらの注意点を確実にご理解いただき、不利益を被らないような対策を取っておくことが大切です。
自営業・個人事業主の方はフラット35が審査に通りやすくておすすめ
自営業の場合、会社員や公務員に比べて審査が通りづらいです。売上によって収入が変動するため、「不安定」という見方をされるからです。
ただし、フラット35(全期間固定金利)であれば話は別です。
民間金融機関の住宅ローンの場合、多くは「年収400万円以上で、安定した収入がある状態でなければ、そもそも申し込みすらできない」といった縛りがありますが、フラット35では、そのような収入に対する審査基準は一切ないからです。
さらに、通常は3年程度必要な過去の業績も、フラット35であれば、半年や1年の業績さえあれば審査への申し込みが可能です。
そのため、フラット35は自営業・個人事業主の方であっても審査に通りやすく、ほとんどの経営者がこれで住宅ローンを組んでいます。
以下に、自営業・個人事業主の方にお勧めのフラット35ランキングがありますので、参考にしていただけますと幸いです。
